「カリスマ社長へ」「次世代へつなぐ愛」「家族間の継承教育」.../海外企業との比較で見えてきた、事業承継における日本企業特有の課題とは 中山良一インタビュー
◆スピード感、社長の権限…日本企業特有の課題とは
――欧米企業と日本企業では、承継の時間軸が違うとも聞きます。 その通りです。外資系は事業承継にかける日数も短く、アメリカ系は1年計画を立ててそれを3か月で動かします。 ヨーロッパ系は3年計画を立て、1年で完遂します。 ところが日本は事業承継の期限を切るという感覚がありません。 江戸から300年続く企業も珍しくないお国柄ですから、1、2年でトップ交代などあり得ないという感覚です。 長期的なビジョンで経営が行われているからこそ、安定性は高いのですが、変革は遅れがちですね。
◆欧米企業は人気漫画「キングダム」
――反対に欧米企業はなぜそれほど短期に事業承継ができるのでしょうか。 さきほど触れた通り、家族の意向を気にせずにすむことに加えて、ファイナンス、ブランディング、セールス、マーケティングといった各部門の統括責任者を、組織内に配置しているからです。 漫画「キングダム」で出てくる「百人将」、「千人将」のような、実績を積み上げた人物が各部門のトップに立っているのです。 後からやってきた社長は、各責任者の顔と名前を覚えれば、意思決定に専念できる組織になっているのです。 一方、日本では社長がすべての領域に発言力を行使しているため、役割も権限も明確に区分されていません。 だから後継者はゼロから組織を作らなければならないのです。 また日本は株式の譲渡や相続における税務や法律も複雑。 その上、歴史や伝統、前任社長の権威性の継承も考えなければなりません。 しかも下剋上のケースが多く、往々にして先代と後継者が戦う構図になりやすいのも特徴です。
◆カリスマ経営者にこそ教育が必要
――世界的に見ても日本の事業承継は特殊のようですが、もっとも大きな特徴は何でしょうか。 それはカリスマがいることです。 2015年に有名社長が交代した「ジャパネットたかた」などはその典型でしょう。 歴史と権威性、信頼性をどう継承するのか。そこが日本企業の事業承継で最大の課題だと思います。 ――ではカリスマ経営者から事業を引き継ぐには、どうすればよいのでしょうか。 1つは教育です。後継者教育だけではありません。先代社長にも教育が必要です。 しかも後継者に先行して行うべきです。 日本の社長は総じて息子、娘に厳し過ぎる傾向があります。 「経営は甘くない」のはその通りですが、愛情に乏しい印象です。 父親が困ったとき、ほとんどの息子や娘は、会社をやめてでも親の手伝いにかけつけます。 子どもは必ず親への愛情を示すのです。 では、社長は愛情を持って迎えてあげていますかと、問いたくなるケースが多いのです。 子どもだけに限りません。 日本の組織は後継者に冷たいですよね。「ひがみ」もあるのでしょう。 それで前任と後任が敵対する構図が生まれてしまう。 まず先代社長が後継者を快く迎える姿勢を学ぶ必要があります。 同時に、先代経営者にはメンターも必要だと思います。