「カリスマ社長へ」「次世代へつなぐ愛」「家族間の継承教育」.../海外企業との比較で見えてきた、事業承継における日本企業特有の課題とは 中山良一インタビュー
◆後継者が身につけるべきたった一つのこと
――カリスマ社長の場合、社内のあらゆることを取り仕切っていることが多く、後継者の負担が大きいことが課題とも言われますが。 誰もこの人の代わりは務まらないと思ってしまいますよね。 でも自分ができないところや苦手な分野は、他の誰かに任せていいのです。 外部のリソースで補完するのも一つの選択肢。ブランディング、マーケティング、総務、場合によってセールスでもアウトソーシングできます。 ただし1つだけ補完がきかないものがあります。 それは会社が何を目指すのか、何をして社会に貢献するかを熱く語ることで、社員を奮い立たせ、組織を結束させる役割です。 この役目は誰にも代われません。だからコミュニケーション能力は自分で身につける必要があります。 もう一つ大事なのは、後継者になる人にあらかじめ社長にしか見えない景色を見せること。 トップになった瞬間、他社やメディア、社会と自社の関わりが見えてきます。 頂からの景色を知っているのと知らないのとでは、後継者が抱える不安の度合が違うのです。 その景色を見せてあげるのは、先代社長の役割です。
◆M&Aのほかにも選択肢はある
――日本ではM&Aによる事業承継が増えていますが、この傾向をどのようにお考えですか。 M&Aは有力な選択肢だと思いますが、金融的な承継事例が増えているのが気にかかります。 政府もM&A減税措置や各種サポートを用意していることから、事業承継をビジネスとして手がける事業者が増え、他の選択肢を検討しないまま決めてしまう企業が多いようです。 特に、先代がカリスマ経営者の場合は「先代の真似はできないから」と、M&Aを安易に選びがち。 しかしそれが最良の選択かどうか、冷静に考えたほうがいい。 日本企業はM&Aを決めるタイミングをもう少し遅らせてもよさそうです。 よりよい選択をするためにも、先代社長は事前に法律や税制を学ぶ機会も必要です。 知識があれば他の選択肢も検討できます。自社の価値を自社で算出できれば、証券会社を牽制することになり、言いなりにならずにすみます。