最高哲学責任者(CPO)で会社はどう変わるか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(4)
「見立て」もそういうもので、日本の近代化のサクセスストーリーをつねに担ってきたと思うのです。日本は他のアジア諸国のように侵略や植民地化されることなく、独自に近代化を果たしました。 日本の近代化は、私の友人の多くが思っているほど外的なものではありません。そうせざるをえなかったから近代化したのではなく、改革者たちは未来を見据えて、16、17世紀に、そして、明治維新後には、明らかに何かしないといけないと感じていた。
そういう未来志向が日本の力となってきました。単に未来ばかりを見るのではなく、現実的な運動に変える力があるところが日本の強さなのです。 ■茶道の美意識が道しるべに 名和:そうおっしゃっていただけると嬉しいですね。しかし、日本人はあまり茶道をたしなみません。岡倉天心に『茶の本』という名著がありますが、これは英語で読んだほうがいいですね。もともと英語で書かれた本ですから。 ガブリエル:それは知りませんでした。私も茶会に出るために1冊入手しましたが、素晴らしい本ですね。
名和:薄い本ですが、奥深いですよね。私たちはそこに書かれたような精神を持っているのに、いつの間にか忘れてしまっている。日本人として日本文化を学び直さなければなりません。そのためにも、外から刺激を受けるのはいいことです。 ガブリエル:私が茶道から学んだことの1つは「湯気」です。湯気のはかない形は安定した水から生まれると考える。不安定と安定の関係も日本の美意識ですよね。こうした美学もまた、真実への道しるべです。それを経済活動に反映させれば、日本にとって大きな優位性となります。
名和:ガブリエルさんは、日本人よりもずっと日本のことをご存じですね。日本の考え方を世界に広めるためにも、アンバサダー的な存在になって、日本とドイツとの架け橋になっていただきたいですね。 ガブリエル:ぜひそうしたいと思います。現代のドイツは日本から学べることはたくさんあります。私たちは経済の現実という同じ場所で一緒に踊っているのに、お互いに十分な会話を交わしていません。もっと相互に影響し合わなくてはなりませんね。
名和:本当にそうですね。刺激的なお話をしていただき、ありがとうございました。 (翻訳・構成:渡部典子)
マルクス・ガブリエル :哲学者、ボン大学教授/名和 高司 :京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール客員教授