最高哲学責任者(CPO)で会社はどう変わるか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(4)
■CPOとBS/PL ガブリエル:まずは試行段階を踏むことです。哲学者を取締役に迎え、経験を積んでもらいます。 次の段階として、これを資本主義のエンジンに変えるためには、おそらくビジネスコンサルティング事業部をつくり、収益向上を目標にメンバーには給与や研究費を支払います。要するに、研究開発部門のようなものをつくって倫理資本主義をよりよいものにしていくのです。 これは一足飛びには実現しません。私が提案したいのは、最先端の哲学を取締役会レベルに持ち込むところから始めて、そのうえで経験を積み、自社のビジネスに移転させることです。
ビジネスコンサルティングを事業部化するのは、企業はBS(貸借対照表)の数字をつくらないといけないからです。完全に経済的手段に転換させなければなりません。そうやって私たちの実践を明確化し、学んだことを実践に還元していくのです。 名和:今日のBSやPL(損益計算書)は、過去と現在を映し出したものにすぎません。未来を見据えて先鋭的で新しいものを考えるために、アカウンティングの人たちは、もっと創造的な発想をしたほうがよろしいのでしょうか。
ガブリエル:もちろんです。なぜなら、生活の質の向上を説明できるからです。ブータンの国民総幸福量指数をはじめとして、多くの経済学者が、さまざまな指標をいかに運用するか、質の高い指標にするかについて取り組んでいます。 そうした考えを経済にまで広げていくと、新たなアカウンティング人材が生まれ、新しい活動が始まるかもしれません。 ■「見立て」――日本再生の道は温故知新にある 名和:日本では何か新しいことを始めるよりも、ドイツ、アメリカ、イギリスなど海外に目を向けて競い合い、自ら新しいシステムを考え出そうとしない傾向があります。これは日本を再生させるときにはいい方法なのでしょうか。
ガブリエル:最近、茶道で「見立て」という素晴らしい言葉を知りました。 名和:禅の奥義に日常における「今、ここ(而今)」の大切さを知るように、あるものを別のものとして見て、その趣向を楽しむのが「見立て」ですよね。 ガブリエル:そうです。真似して対処するのとは違う、素晴らしい融合方法です。ハイデルベルクの有名な哲学者であるハンス=ゲオルク・ガーダマーは「地平融合」という素晴らしい概念を提唱しています。ある時代の文化が1つの地平であり、他にも地平がある。それらを融合させると、これまで見えなかった新しいビジョンが見えてくるというのです。