すべての命には存在意義がある。人と「害虫」が共生するための棲み分けとは? #豊かな未来を創る人
父の仕事が「恥ずかしかった」
── 駆除業務を担うお父さまの事業を継ぐきっかけは、何だったのでしょうか。 幼い頃は、父の仕事を継ぐとは考えていませんでした。むしろ小学生の頃は、ゴキブリを退治する父の仕事に対して、どこか「恥ずかしい」という感情を抱いていたんです。そして、それを自分の中でなかったことにしていました。 武蔵野美術大学で学び、靴の製造卸販売の会社に就職。毎月のように出張でヨーロッパを飛び回りながら、靴のデザインや買いつけなど、忙しく仕事をしていました。そこから4年後にメガネの製造卸販売会社に転職。その頃、父はパーキンソン病と大腸がんによって、闘病生活を送っていました。 ある日、母から「最後の家族旅行になるかもしれない」と言われて、父の会社の社員旅行に参加したんです。すると、そこには楽しそうにはしゃぐ社員の人たちと、それを嬉しそうに眺める父の姿がありました。それを見たときに、父が人生をかけて守ってきたものを守らないといけないと感じたんです。 それから2008年にシェル商事に入社して、2年間現場の仕事に従事した後、代表取締役社長に就任。その半年後、父は84歳で他界しました。
── 既存の事業を継承しながら、「予防」というご自身なりの新たな方針を立てたきっかけは? 社長に就任して4年経った頃に、ビジネスを学ぶ大学院に通ったことが大きかったですね。それまでは旧態依然としていた社内のシステムを刷新しながら、がむしゃらに会社を回すことに必死でした。でもここで改めて、私がこの事業に取り組む意味と向き合い、初めて自分の本当の想いに気づいたのです。 まず最初に大学院で担当教授から尋ねられたのは、「なんで岡部さんがシェル商事という会社を継ぐの?」という質問でした。それに対して「私、一人っ子だったので......」と答えると、その教授が「そうじゃなくて、岡部さんという人間がその会社をする意義って何だろう?」と。 そんな問答を繰り返して、自分の考えや想いと向き合っていくうちに「ああ、私は小さい頃に覚えた『恥ずかしい』という感情に、どこかで蓋をしていたんだな」ということにも気づきました。