すべての命には存在意義がある。人と「害虫」が共生するための棲み分けとは? #豊かな未来を創る人
── シェル商事での事業を行っていく中で、対処から予防へと視点がシフトしていったのですね。 もちろん日々起きる衛生トラブルについては、これからもシェル商事で的確に処理をするプロとしてのスキルは必要だと考えています。ですが、これからはより長期的な視点を持って、その前段でできることを8thCALで模索していく。そこで得た知見やスキルを、シェル商事の事業にも落とし込んでいく。そうやって事業を回しながら私たちが目指しているのは、人と自然がきちんと共生できる都市環境づくりです。
── 「人と自然の共生」というのは? 私たちのビジネスは、いわゆる「害虫・害獣」と呼ばれる生き物や土壌、水、空気などの自然に関わっています。そしてときに生き物の命をコントロールして成り立っているとも言えます。 でも、立ち止まって考えると、人間も彼らと同じ自然の一部なのです。環境への負荷もゼロとはいえない殺虫剤という手段をできる限り使うことなく、命や自然に配慮のある選択をしていきたい。駆除から予防にシフトしていくことで、人とあらゆる生き物が互いの生活を犯すことなく共生できる方法を模索する。それが持続可能な未来にとって大切だと考えています。 そのために、一つのキーとなる考え方が「棲み分け」。つまり、生き物と人間が活動するエリアを分けるということです。本来、自然の中で暮らしていた生き物たちにとって、都市が住みにくい空間になれば、繁殖も抑制できるはず。そうやって、ゆるやかな境界線をデザインしていく必要があると思っています。
命の共生のための「棲み分け」
── 「棲み分け」の観点で、実際にどのような取り組みをしているのでしょうか。 8thCALでは、例えば飲食店を新たに作る際に、設計事務所と連携してコンサルティングを行っています。生き物の習性を熟知した上で、彼らの寄ってこない水はけの良い角度にキッチンを作る、通り道となる隙間を塞いで密閉性の高い建物を作るなど、建物の構造段階から提案する。そもそも建物自体に生き物が入ってこない仕組みを作るのです。 そして今後は、一つの建物だけではなく、街全体のマネジメントにも力をいれていきたいです。例えば海外ではネズミのベイトボックスというものが、街のいたるところに設置してあるんです。これは毒餌を入れた箱を置いておくことによって、そのエリアに来ると危ないと学習させて、ネズミがいなくなるようにするのです。 ── 海外においては、街全体で生き物をブロックする考え方が浸透しているということですね。 そうですね。一方、日本では建築物衛生法という法律に則って、エリアではなく、建物ごとに衛生管理をしていくのが基本の考え方です。この法律は厚生労働省の管轄ですが、建物の外にベイトボックスを置くとなると、国土交通省の管轄になってくる。そうした縦割りの壁があることも現状です。今後は私たちが実証実験なども行いながら、自治体や行政とも連携して仕組みづくりをしていきたいです。 そのためには、目の前の事業や顧客だけを見ているだけでは足りなくて。まず世界でどのような研究が段階的に進んでいるのかを知る。そしてそれがどのくらい信頼できて、何を取り入れていけるのかを自ら判断できなければならない。ですので、できる限り海外視察や学会発表などの場に足を運ぶことで、多方向から物事を捉え、最適解を見い出すための視座を持たねばと考えています。