インドで遭遇した「自動車盗難事故」の大変すぎる顛末、警官や保険会社の対応に開いた口が塞がらない…
なんと袖の下を要求してきたのである。車輛代が(日本円換算で)約150万円だったので、その5分の1と言えば30万円ほどである。夫は呆れ果て、相手の言葉が聞こえなかった振りをして、さっさと証明書をポケットに納めてしまった。 すると、意外にも担当官はあっさり諦め、そのあとはただの一度もお金の無心をしてこなかった。賄賂を要求する悪徳公務員にしてはずいぶん気が弱いが、あるいは「ダメモト」で言ってみただけなのかも知れない。 ● 「保険が下りるのは100年後」 保険会社の態度に夫がブチギレ 次に待っていたのは保険会社との交渉。盗難証明書を持って、夫が保険会社へ出かけた。 ところが、ここでは担当者がのらりくらりと答弁するばかりで、何度行っても話が一向に進まない。あっと言う間に数カ月が経ってしまった。それでもめげずに足を運び、「いつになったら保険金が下りるのか」と繰り返し尋ねる夫に、返ってきた答えは、 「無理です。いつまで待っても保険なんて下りませんよ。私は何年もこの会社で働いてきましたけど、保険が下りて金をもらえた人なんて、まだ一度も見たことがありません。その証拠に、私自身もスクーターを盗まれたけど、いまだに保険金が下りる気配はありませんから。もしも奇跡が起こって保険金が下りたとしても、今から100年後でしょう」 あまりにも人をバカにしたこの発言に、今度という今度は夫の堪忍袋の緒も切れたらしい。売り言葉に買い言葉で逆襲した。 「上等だね。それなら、おたくの会社の実情を、ヒンドゥスタン・タイムズ(インドの代表的な英字新聞)に書いてもらえるよう頼んでみますよ。あそこの編集長は親友なのでね。おたくの会社の名前も、おたくの名前も、これで一躍有名になれますね。おめでとう!」 これがよほど効いたらしく、男はいきなり前言撤回。 「さっき言ったことは、私の勘違いでした!あなたの保険金は下ります!」 そこから先は、トントン拍子とは言わないまでも、正常に物事が運み、車を盗まれてから1年後、保険金は全額無事に支払われた。 最後に会った時、保険会社の男が羨ましそうにポツンと呟いた、 「ヤマダさんのところは保険が下りていいなあ……」 という言葉が、実にリアルだった。
山田真美