伊藤千桃74歳「40代で2人の子どもを抱えて離婚、葉山の自宅でカフェ運営。お金はなくても、自然に囲まれ、知恵を使って暮らすことが私の楽しみ」
◆お金持ちの友人に羨ましがられるなんて こんな話をすると、不安がない達観した人に思われますが、それも70代の今だからこそ。お金に何不自由なく暮らしている友人をすごく羨ましいと思うこともありますよ。 でも、彼女たちはいつも退屈しているといいます。だから外に出かけて買い物をしたり、素敵なレストランで食事をしたり。それなのに、なぜか私が羨ましいというのです。 私はいつも家のことで手一杯。忙しくて、ゆっくり外食を楽しむ暇もありません。それに人づきあいにはお金がかかりますしね。ですから、大切な友人との特別な時間のためにとっておきたいのです。 ときどき仕事で都内に出ることがあり、そんなときは年に1度くらい、友人と食事を楽しむ。それで十分です。
そんな私も、数年に一度は海外旅行を楽しみます。イタリアでバッグデザイナーをしていた友人が相棒です。彼女は実家も裕福で、2人で旅行をするときは、彼女はファーストかビジネスクラス、私はエコノミークラスで。「じゃあゲートで待ち合わせね」という具合です。 以前タイに行ったときは、安宿を探してきてくれて。激安旅行です。タライの水で髪を洗うような美容院に行ったこともありました。 そのあとは、特別に高級ホテルでランチをするのです。「こういう経験も楽しいわよね!」と言ってくれる彼女とは気が合って、ときどき一緒に出かけています。 子どもたちは「お母さんは、お金がなくてよかったね」と言いますが、そうなのかもしれませんね。お金があったら、ものは手に入れられたかもしれませんが、退屈して満たされない毎日を送っていたでしょう。 結婚した頃は料理もできないような状態でしたが、少しずつ生活の知恵を身につけていくうちに、手作りするのが楽しく豊かな生活だと思うようになりましたから。 今もこれからも、きっとお金はないけれど、家族で食卓を囲んだり、庭でキャンプをしたり、愛犬と海を散歩したり。自然の恵みをいただきながら、穏やかに過ごす毎日が幸せなのだと思います。 (構成=島田ゆかり、撮影=藤澤靖子)
伊藤千桃