伊藤千桃74歳「40代で2人の子どもを抱えて離婚、葉山の自宅でカフェ運営。お金はなくても、自然に囲まれ、知恵を使って暮らすことが私の楽しみ」
◆ケータリングの仕事で余裕はできたけれど カフェを始めて数年後、娘が生まれたばかりの子どもを連れて戻って来ました。大学で経済を学び、卒業後は飲食関係の仕事をしていた娘が、カフェの売り上げを見て「何の儲けにもなってないじゃない」とビックリ。放っておけないと思ったのでしょうね。カフェを閉じて、一緒にケータリングサービスと、離れを開放して民泊を始めることにしたのです。 葉山という土地柄もあるのか、ロケ用のお弁当を100個予約いただいたり、マリーナのヨット大会にケータリングを頼まれたり。鎌倉の方にホームパーティ用のお料理を頼まれることも。この小さなキッチンでお弁当を100個、娘と詰める。やってみると、意外とできるものですね。 娘親子は2階で暮らし、私は1階で一人暮らしを満喫しています。家計も食事も別。仕事で得たお金は娘が管理してくれているので、私は気楽なものです。わずかな年金と、足りなくなったら娘にお給料をもらいます。 年金は前倒しで60歳から受給しているので、若干少ないですが、定期的に入ってくるお金はありがたい。とはいっても、ここでの暮らしはお金をあまり使いません。水道・光熱費と携帯電話代、税金くらいでしょうか。 食材はケータリング用の材料の残りがあるので、困ることはありません。工夫すれば、簡単だけど美味しい料理ができます。 息子家族も近くに住んでいますが、息子の妻はもともと都会っ子。当初は、デパートがない生活が寂しそうでした。 お客様が来るので急いでケーキを焼くと言えば、「え!? 買ってこないんですか?」と驚かれ、私が一人で庭の草むしりをしているのを見ると「業者さんに頼まないんですか?」と不思議がられ……。そんな彼女も今ではすっかり葉山暮らしが板につき、気に入っているようです。
洋服を買うのは4、5年に1度くらいでしょうか。気に入ったものしか買わないので、30年近く着ているものもあります。ファッションは大好きですが、シャツとジーンズが何着かあれば、毎日洗濯して着るので十分です。 娘と私用に2台あった車は1台を手放し、今は娘の車をときどき借りています。基本はどこへ行くのも徒歩。2時間くらい歩くのも平気です。毎日、犬の散歩に行きますし、ゴミ出しは坂の下まで行かなければいけません。足腰が鍛えられて健康になるので、お金がないのも悪くないものです。 「病気をしたらどうするの?」と聞かれることもありますが、少ないながらも医療保険に入っていますので、何かあればその範囲で、と子どもたちにお願いしています。今は、体調が悪くなれば庭のハーブを煎じて飲むだけ。2日も寝ていれば元気になりますから。化粧水もハーブを使って自分で作っています。 あるとき、友人が指の関節が痛むへバーデン結節で病院通いをしているという話になりました。「どんな治療をするの?」と聞くと、しばらくお湯に手を浸けるのだといいます。これは笑い話ですが、それだけなら家の洗面所で十分ですよね。 私が優先的にお金を使うのは、この場所で暮らすための費用です。家や庭の手入れにかかるお金は必要経費。自分でできることはして、どうしても難しい場合のみ業者さんにお願いします。 たとえば、こんな1日が私の日常です。庭のハーブやレモンの木の世話をしたあと、おやつ用のドーナツを生地からこねて、発酵させている間に掃除機をかける。そのあとシャワーを浴び、ドーナツを揚げて一人コーヒータイム。お金はかかっていませんが、豊かな時間です。 ケータリングの仕事が入れば、娘と調理。そんな生活が、きっと優雅で素敵な暮らしに見えるのかもしれません。でも、お金がないからそうやって暮らしてきただけなんですよ。 自然に囲まれて、知恵を使って暮らすことが私の楽しみであり、幸せ。ここでの暮らしは豊かで、お金がたくさんなくても安心できます。だからあれこれと贅沢する必要はないのです。