したたかに「アメリカの弱体化」を見越していた、岸田政権が国連演説で見せた「政治的リアリズム」
これは、言ってみれば価値観外交の否定です。そして明らかに、アメリカの力が弱くなっていることを見据えた上での発言だといえます。 アメリカの弱体化については、エマニュエル・トッドも『「帝国以後」と日本の選択』に収載されたインタビュー「米欧同盟から多極的連帯へ――ヨーロッパは『帝国以後』をどう読むか」で、「アメリカの貿易赤字は年間で5000億ドルにものぼります。アメリカは1日あたり15億ドルの外国からの資本流入を必要としているのです。
このような国外への依存こそがアメリカが置かれていたバランスをおかしくしたのです。アメリカはもう独力でやっていくことはできません」と語っています。 ■意外と冷静な「日本の独自外交」の方向性 2024年4月に、岸田首相は、日米首脳共同声明(「未来のためのグローバル・パートナー」)を出し、アメリカ連邦議会での演説を行いました。日本のメディアは連邦議会での岸田首相の演説は、しっかりと報道しています。この演説では、民主主義、価値観についてもしっかり述べており、価値観の連合をつくると言っています。
しかしこれはあくまでも日米の世論向けの発言です。国連一般演説とは違って、日米共同声明は合意文書であり、双方向性のものだからです。 国連一般演説は、ただ一方的に聴衆になんの縛りもなく語るだけなので、そのなかで民主主義という言葉は1度も使わずに、価値観を1度棚上げにしてでも平和のための融和をはかるべきではないかという趣旨のことを述べています。これは明らかに、勢力均衡的な考え方に立った、政治的リアリズムに基づく発言です。
これはウクライナ戦争への対処の仕方とも共通しているのですが、日本の政府はけっこう冷静な判断をしていますし、国民もそれを冷静に見ています。騒いでいるのは、メディアと専門外の知識人、いわゆる有識者だけなのです。 メディア業界の人間というのは、基本的に騒ぎ立てる側にいるのです。それがビジネスになるからです。そして、そのような騒ぎ立てるだけのメディアとは距離を置こうと私は思っています。なぜなら、それが短期的にビジネスにはなっても、不正確な話は作家としての中長期的な信用に繋がらないからです。