主人公の「闇落ち」から世界での快進撃が始まった…日本よりも海外人気がすごい講談社発のファンタジーアニメ
■1位はアメリカ、2位はブラジル、3位はイギリス ちょうど日本でいえば『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に沸いていたロックダウンの時期だ。MALにおいてMost Popularityで最もメンバー数を集めているのはほかでもない『進撃の巨人』である。それが全世界どのように分布しているのかをみた図がこちらである(図表4)。 米国だけで100万人登録、全米人口の0.3%がMALの『進撃の巨人』に登録していると思うと恐ろしい比率ですらある。ちなみに日本は0.02%、ほか英語が苦手な東アジア諸国は軒並み低い。比率だけでいえばカナダは人口比0.5%、フィンランドは0.6%にもなる。中央アジアとアフリカ以外は全世界で見られていた。 進撃人気を考えると、これでもまだ北米・欧州に偏っている表ではあるが、およそ日本アニメが到達しうる世界の果てを探るにはこの表をみるのが一番わかりやすい。2024年に1.4億部突破したコミックスは非公表だがかなりの割合が海外によるものだろう。 一人の人間のエゴが大衆を扇動し、多くの犠牲をもいとわずに大義を全うする。エレンもまた「世界の8割を“地ならし”で殲滅して、巨人を駆逐する」という目的を達成した。 残った2割の人間が、今度は巨人なしで戦争を始める世界がよかったのか、巨人の恐怖におびえて10割が生き残りつづけるほうがよかったのか、本作は一アニメであることを飛び越えて、世界と国家と社会と個人のあり方について常に疑問を投げかける。 ■自分の子供にも読んでほしい 作中において、印象的なセリフを二つ紹介しよう。 「夢を諦めて死んでくれ。新兵達を地獄に導け」 リヴァイ兵長の調査兵団の第13代団長・エルヴィンに対するセリフは、過去半世紀マンガやアニメがだれにでも伝わるものとして情報を圧縮し続けてきた先人たちのフレームを、踏襲しているともいえるし、大きく逸脱しているともいえる。 「みんな……何かの奴隷だった……」 ケニー・アッカーマンが死に際に語った言葉は普遍的であるがゆえに、それはアニメという手段を使って伝えるべきメッセージなのかと戸惑う部分もある。 本作を通底する一番のメッセージは「人間は常に誰かにとっての奴隷であり、誰かにとっての悪魔になりえる」ということなのではないか、と私は解釈している。 われわれをとりまくリアルの世界は時に牙を向け、正気を保つことすら難しい時にも前に進まなければいけない、というときがある。そんなときに私は自分の子供にこの進撃の100話にも及ぶ壮大な物語を見てほしいと思う。 ---------- 中山 淳雄(なかやま・あつお) エンタメ社会学者、Re entertainment社長 1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。 ----------
エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄