1口10万円で映画製作に参加、金融の可能性にチャンレンジ──映画『宝島』をセキュリティ・トークン化:フィリップ証券【発表会レポート&CEO Q&A】
単なる投資ではなく「新たな体験」を
フィリップ証券が今回、映画のST化に取り組む背景や狙いについて、同社代表取締役社長の永堀真氏はまず、セキュリティ・トークンの可能性には「投資対象の多様化」があると述べた。さらに具体的な投資対象として「不動産」「航空機」「インフラ」「社債」「未上場株」「金銭債権」をあげ、前半の3つは「富裕層を対象とした大口の投資商品」で、STにより小口化を実現した。次に後半の3つは「法人を中心とした投資商品」で、STにより一般化を実現したと説明した。 そして今回、同社が挑戦しようとしていることは3つ目の新しい分野であり、具体的には「ESG」と「エンタメ」をあげた。 「セキュリティ・トークンはいろいろな可能性があり、投資対象が多様化しているが、現実は85%が不動産、15%が社債。すでに存在した投資商品を小口化・一般化したもの。私たちは今回、新たに今まで『投資するという感覚がなかったもの』に対する投資を実現したいと考えた」 また投資家の目的はもちろん収益を上げることだが、昨今は取引がますます短期化していると指摘。会社のポリシーやビジョンに長期的な視点から投資するケースが少なくなっていると述べた。 さらに新NISAの登場で、株式投資が盛んになっているといえ、よりリスクの高い資産への投資はまだまだハードルが高いものになっおり、こうした状況は、事業会社にとっても「挑戦的な商品企画」を難しくしていると続けた。 そしてセキュリティ・トークンが実現し得る世界では、投資家は単なる収益を狙った投資ではなく、今回の映画への投資のような「新たな体験」と事業への「当事者意識」を得ることができると指摘。一方、事業会社にとっては、商品企画に共感した人たちが資金を提供することで、リスクに挑戦しやすい状況が生まれると述べた。 永堀氏のプレゼンテーションの後には質疑応答が行われた。
永堀社長の「思い」を実現、ただしリスクも
──映画のセキュリティ・トークン化という新しい取り組みはどのような経緯で始まったのか。 このようなビジネスにライフワークとして取り組みたいと以前から考えており、3年前にフィリップ証券に入社した目的もこのためだった。学生時代に「直接金融」のダイナミックさに憧れて、この業界に入った。2020年7月に金融商品取引法が改正され、有価証券や受益証券、集団投資スキームをデジタル化して金融機関で取り扱うことができるようになり、「これこそ、私の思いを実現できるツールかもしれない」と考えた。 だが、証券会社だけの力では絶対に実現できないことなので、いろいろな方と話をする中で、2年半前くらいに(映画製作のノウハウを持つ)クロスメディアの佐倉社長と出会い、話を進めた。また当局とも1年半くらい対話を続け、ようやく実現した。 ──「思い」や「共感」を形にするとはいえ、投資商品なのでパフォーマンスは重要。興行成績として30億円をクリアしないと収益があがらないと報じられているが、収益予想はどのようになっているのか。 当然、運用のパフォーマンスは非常に重要だ。過去の映画作品を何作も研究した。今回、映画製作委員会として集める資金は12億円規模で、これは「大作」と言われる範疇。大作映画の興行成績を過去10年ぐらい全部見たうえで、それなりのパフォーマンスは出せるのではないかと判断した。 ただし、この10年間の例を見ても、興行成績の良いものはそれこそ数倍になり、良くないものは元本割れもある。なので、想定パフォーマンスは資料にはあえて記載していない。