ウクライナ軍はなぜロシアに踏み込んだのか【寄稿】
ジョン・フェッファー|米外交政策フォーカス所長
ロシアはウクライナに比べ、兵器も兵士も多い。経済制裁でも生き残った。ロシアは主要なエネルギー基盤施設が攻撃され非常に寒い冬を送らざるをえないウクライナとは違い、エネルギーも豊富だ。ロシアの指導者ウラジーミル・プーチンの支持率は85%に達する。 しかし、このようなすべての利点にもかかわらず、プーチンは失敗を続けているようだ。一つ目の失敗は、2022年にウクライナに侵攻したことで、即時の抵抗を受けるなか、旧式の装備と判断力不足によって打撃を受けた。二つ目の災難は、2023年に多くのロシア軍を追い出したウクライナの反撃とともに訪れた。そして、プーチンの側近のエフゲニー・プリゴジンが率いるワグネルのクーデターが発生した。2024年3月には、モスクワのコンサート会場でのテロで、140人あまりが死亡した。プーチン政権はテロ発生の可能性について、米国とイランからきわめて正確な情報を得ていた状況だった。いまやロシアは、第2次世界大戦後では初めて侵攻を受けている。ウクライナ軍はわずか数週間で500平方マイルにのぼる面積と100の集落を占領した。 しかしクレムリンは静かだ。プーチンはウクライナ軍の作戦をテロと呼び、意味を縮小しようとしている。彼は侵攻された地域に十分な軍事力を投入せず、ドンバス地域全体を支配するという約束を守ろうとして、ウクライナへの攻撃を続けている。 ロシアがウクライナの都市に投下する爆弾と、「肉粉砕機」戦術によって投じる兵力の規模をみると、絵に描いた虎とは明らかに異なる。しかし、ロシアが軍、情報、国境防衛に投じる費用は、すべてが目的地に到着できていないことも明らかだ。プーチンはこれを正そうとして、高級将校たちを汚職容疑で逮捕している。国防相を経済学者に交代したのは、軍事分野の収支を合わせることの重要さを示している。プーチンは批判者を沈黙させることにも長けている。プリゴジンは疑わしい飛行機墜落によって死亡した。主要な野党の要人であるアレクセイ・ナワリヌイは、シベリアの監獄で疑問の死をとげた。しかしプーチンは、隣国との戦争で勝ち、軍隊をむさぼる腐敗を阻止し、ロシアを繁栄する国にする決定を下すなどの大きなことは遂げられていない。 ウクライナは、米国と欧州諸国の兵器提供にもかかわらず、ドンバスとクリミア半島からロシア軍を追い出すのは難しいことを知っている。プーチンが十分な兵力を送れば、ウクライナ軍は現時点で占領しているクルスク周辺のロシア領土を守ることは難しいだろう。 プーチンは70代だが、今後ロシアを10年はさらに統治できる。ウクライナは、このような戦争をさらに10年続けることはできない。ウクライナにできることは、なんとかしてロシア人にあなたたちの指導者はひどい指導者だと説得することだ。それこそが、クルスク地域を侵攻した理由であり、ドローンで主要な軍事施設とエネルギー施設を攻撃する理由であり、クリミア半島を事実上無力化し、黒海で休暇を過ごしたいロシア人がそこに行くことを敬遠するようにした理由だ。ウクライナ軍のロシア人に対するメッセージは「あなた方の指導者は、あなた方を保護できない」というものだ。 メッセージを送ることと受け入れることは別物だ。ロシアには、へき地からの不公平な兵士徴集や息子を失った母親、深刻な腐敗による多くの怒りがあるが、大規模な抵抗運動には統合されずにいる。しかし、沸き上がる怒りは、広範囲な中間層エリートに、プーチンはもはや役に立たないと説得するには十分でもある。この揺れ動く階層は、プーチンがロシアの生命と富をあまりにも多く失わせたのだから、より実用的な指導者に交えなければならないという主張を受け入れることもありうる。 これがウクライナの戦略だ。ウクライナはプーチンが次に犯す戦術的失敗が、彼の最後の失敗になることを願い、ロシア内で戦争を続けるだろう。 ジョン・フェッファー|米外交政策ォーカス所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )