「なぜ医学部に行かせたいのか?」…経済アナリスト・森永康平氏が〈わが子を医学部受験させたい親〉に“あえて”問うワケ
実は「親からのプレッシャーで潰れる子」は多い
筆者は以前、学習塾の講師をしていたことがありました。そこは高校受験をメインとする学習塾でしたが、親からの圧力で子どもがつぶれるパターンを数えきれないほど見ました。 筆者は保護者面談の際に「熱が入ってしまう親御さんの気持ちはわかりますが、逆効果になるので抑えてください」「塾側は合格させるために最善を尽くしていますし、お子さん本人は精一杯頑張っています。現状でお互い100%を出していますから、信じて見守ってください」と伝え、子どもに不要な圧がかからないよう制止していました。 例えば、子どもに言い過ぎてしまうときや、考えを一方的に押し付けてしまっている状況でも、第三者として塾の先生がそれを断ち切りにいけるかもしれません。しかし、中にはそれができないケースもありますから、親が自分自身を制御できないと、わが子に圧をかけ過ぎることになるのではないかと思います。 強いプレッシャーがかかったとしても、結果的にうまくいったのであれば、子どもは「親のおかげで受かった」と思えるのかもしれません。しかし、落ちてしまった場合は大きなダメージを食らい、18歳にして「もう自分なんてダメだ」「人生終わった」というような精神状況に陥りかねません。 あまりにももったいない話です。40歳近い筆者から見れば、「何を言っているんだ。18歳なんて、まだいくらでも挽回できるでしょ」と思ってしまいますが、かつて自分が18歳だったときを振り返ると、現在のような目線は持てていませんでした。40歳近くになった今では「18歳なんて、この先どうとでもなる」と思いますが、当事者からするとそうは考えられないのです。 「医学部へ行け、そして医師になれ」というように“道”が1本しかない状態だと、その道が塞がってしまった場合は他に行きようがなくなってしまいます。 これは以前、児童のいじめについて取材をした際に伺ったことです。「子どもにとってはクラスが『社会のすべて』なので、そこでいじめにあってしまったらどうしようもなくなる」のだそうです。これは大人からすると極端な思考に感じられます。他の学校へ行けばいい、最悪学校へ行かずとも家でいくらでも学べる時代だし、つらいなら行かなければいい、と思うでしょう。しかし、子どもはそうは考えられません。当事者としては、そのクラスで生きていかなければいけないと思っているので、いじめで追い詰められてしまうのです。 子どもは、どうしても「いま目の前にあること」を「すべて」だと思ってしまいます。親が「子どもが追い詰められる状況」をより加速させるようなことをするのは、望ましくないと思います。例えば、わが子のいじめ被害を認識しながら「我慢して学校に行きなさい」と言うのは最悪ですよね。筆者だったら「学校辞める?」「転校する?」などと選択肢を出します。 目の前のことが「すべて」である以上、子どもは選択肢を持つことができません。医学部受験も同じです。常に選択肢を見せていたら「どうとでもなるなら、勉強しなくていいや」などと開き直ってしまう子もいるかもしれませんが、肝心なときには、親は「あなたにはいろいろな選択肢を与えているし、きちんと選べるんだよ」と選択肢を見せてあげられたらと思います。そうできるだけの心の余裕をもっておきたいですね。 森永 康平 金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト 1985年、埼玉県生まれ。明治大学卒業後、証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとしてリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在は複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員
森永 康平,医学部専門予備校 京都医塾