「なぜ医学部に行かせたいのか?」…経済アナリスト・森永康平氏が〈わが子を医学部受験させたい親〉に“あえて”問うワケ
わが子が自分の力で食べていけるように、親はどのような教育を施すべきか。その解の一つは、食いっぱぐれない職業の代表格・医師になる道が拓く「医学部進学」でしょう。ただし、ひとたび医学部受験を決意したとしても、子ども本人の意向が変わったり、医学部を卒業した後に医師以外のキャリアを希望したりするケースも珍しくありません。「わが子を医学部に」と考える親は、教育投資についてどのように考えるべきか。経済アナリスト・森永康平氏が解説します。 【早見表】子供の1ヵ月の教育費「小学生/中学生/高校生」「公立/私立」で比較
「子どもを医学部へ行かせたい親」が考えるべきこと
わが子の医学部進学を考える親としては、「幸せになるために医学部へ行ってほしい」「医師にしてあげたい」という考えがあるのだろうと思います。しかし、「医学部へ行ったけれど医師にはならない」というキャリアもあります。また、「医師一択」という思考でいるとかえって子どもの未来を狭めてしまう可能性もあります。 医学部受験の先に得られるのは、「医師免許」という目に見えるものだけではありません。狭き門を突破できるだけの受験勉強を行い、それを乗り切ったという忍耐力、論理的思考力などを養うことができます。これらの、いわば「目に見えないスキルセット」は他の業界にも求められるものであり、医師以外のキャリアをも拓ける大きな武器になりえます。 子ども自らが医学部を志望するのであれば、命を救いたい、人の役に立ちたいという気持ちがあるのでしょう。これは医師に限らず、企業人の立場から志す道もあります。大手企業の採用スクリーニングにも強かったり、専門知識を活かしてヘルステックを起業したりなど、医学部卒の方が持てる手札は多様です。そういう意味で、医師免許は「最強の国家資格」の1つと言えるでしょう。 だからこそ筆者は、わが子の医学部進学を望む親は「なぜ行かせたいのか?」を自問自答したほうがよいのではないかと思います。 17歳、18歳くらいの子が「自分はこういう進路にする」と覚悟を持って決めていたとしても、まだ世の中のことを知りませんし、数日で考えが変わることもありえます。また、医学部に進学した後に別の道を見出すこともあるでしょう。 元より子ども本人が医師一筋なのであれば、親は前向きに応援してあげるのがよいでしょう。ただし、子ども本人が途中で「やっぱり違うな」と方針を変えることもありますから、親は「ある程度の路線変更はできる」という余裕をもって、どっしりと構えておくことも大事だと思います。先述のとおり、医学部受験を通じて内面のスキルセットが身につき、選択肢は広がっています。リスクヘッジができているわけですから。 筆者は、子どもの未来を見据えた教育を考えるうえで大切なのは、「どうすれば不幸にならないか」という、ダウンサイドを埋める視点だと考えています。正直に言って、「どうすれば幸せになるか」とアップサイドばかりを狙うと青天井です。「もっと、もっと」とどこまでも上を求めることになるでしょう。 本連載の第1回 でも述べたように、日本経済だけを考えると、明らかに「悪いシナリオ」が実現する可能性のほうが高いと見ています( ⇒関連記事:『経済アナリスト「さらに手取りを減らしてどうする」――少子化対策のために〈社会保険料“上乗せ”〉という自滅ルート』 )。 人口は減り、経済は成長しにくくなる。社会全体が下がっていくわけです。だとすると、アップサイド狙ってギャンブルをするよりは、「いかにダウンサイドを抑えて、全体が低下していく中で自分は浮上していくか」。この発想がすごく大事だと思っています。