「幻の戦車」を求めて 男たちはなぜ湖底を探すのか?
漁業の「聖域」に封印された戦車
私が最初に猪鼻湖を訪れたとき、「こんな狭い場所で、なんですぐに見つからないんだろう?」と不思議に思ったものだ。湖をせき止めたり、湖底のヘドロを大規模に掻き出したりすれば、すぐにでも見つかる気がした。 しかし、猪鼻湖と浜名湖の結節点である瀬戸でそんなことをすれば、浜名湖全体の水質が悪化する可能性がある。そうなれば、漁協は黙っていないだろう。一人の記者の情熱が生み出した「幻の戦車」は、浜名湖に生息するアサリや、養殖されるカキやノリなど豊富な魚介類によって守られた「聖域」に封印されていたのだ。 可能性は残されている。引き揚げにこだわって失敗した田所さんらの反省をもとに、中村さんは「引き揚げしない。現状のままで発見するのが私たちの目的だ」と断言する。三ヶ日地域の「街おこし」の一環として、水質悪化を招かない探索活動に焦点を絞ることで、漁協が反対しにくい環境をつくっていた。 親子の絆を求める中村さんが、漁業の「聖域」に埋もれた戦車を発見することができるのか、静かに見守りたい。 (この記事はジャーナリストキャンプ2015浜松の作品です。執筆:安藤健二、デスク:開沼博) ■安藤健二(あんどう・けんじ) 1976年生まれ。産経新聞、フリーランス、BLOGOS、ニコニコニュースを経て、ハフィントンポスト日本版の記者。著書に『封印作品の謎』(太田出版)、『パチンコがアニメだらけになった理由』(洋泉社)などがある。 【UPDATE】冒頭に登場した猫ですが、茶色と白色の2種類の毛だったので「三毛猫」ではなく「猫」と訂正しました。また「調査プロジェクト」の中村健二さんから、この猫について情報が寄せられました。静岡県動物愛護指導員を務めている中村さんの奥さんが捕獲し、避妊手術をした上で「地域猫」として瀬戸地区で飼っている猫だということです。(2015/08.03 21:57)