運転の邪魔をする? 「電動パワステ」は何がダメなのか
“おかしなセッティング”はなぜ?
実はクルマは放っておいて真っすぐ走るものではない。路面の傾斜や轍(わだち)で進路が乱される。これをまっすぐ走らせるには、早めの手当てで出来るだけ少ない修正舵を当てることが望ましい。ドライバーが車両の斜行を検知するのが遅れて、その分操舵量が増える(too late, too much)と、クルマは蛇行する。 なので、斜行が始まった瞬間に微舵角を入れて修正したいのだが、その僅かな操作を電動パワステが反力で阻もうとするのだ。その結果、電動パワステに抵抗された分、操作が遅れ、「too late, too much」な操舵が必要になる。 プロのエンジニアがどうしてそういうセッティングをするのか首をかしげるが、タイヤが右向きにも左向きにも力を発生させていない中立付近、つまり舵を当てずに直進している状態で、ステアリングの操舵力が軽いと、なんらかの事情でドライバーの体の揺れを拾ってクルマが蛇行するという考え方があるようだ。しかしそれはドライバーの座り方やステアリングの保持の仕方に問題があるのであって、ドライバーが行う正しい操作に対する正しい反応を犠牲にするのは大きな間違いだ。 自動車評論家の森慶太氏は「自転車のハンドルが真っすぐの状態で渋く固まっていたら、それで自然に走れます?」と常々言っているが、そういうおかしなステアリングが増えている。先日はボルボのXC90に乗ったら、運転モードによってはそういうステアリングセッティングになっていて「ボルボよお前もか」とがっかりしたのだ。 電動パワステは油圧に比べて、技術的可能性が多方面に広がっている。例えば、路面からの反力を上手にフィルタリングすれば、理屈通りのステアフィールを実現しつつ、余分なノイズを完全にカットできる可能性もある。レーンキープアシストやその先に続く自動運転もまた電動パワステなしでは成立しない。可能性があるからこそ、今後の電動パワステの洗練には期待したいのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)