運転の邪魔をする? 「電動パワステ」は何がダメなのか
「油圧パワステ」と「電動パワステ」
そこにパワステという救世主が現れた。パワステは、そうした反力の過大な逆流を阻止し、操舵力を軽減してくれる。 自動車に初めてパワステが搭載された時、それはエンジンが作り出した油圧で操作力をアシストする仕組みだった。ステアリング・シャフトの先に取り付けられたピニオンギヤが、ラックと呼ばれるのこぎり歯の様な棒状のギヤを左右に動かし、ラックがタイロッドを介してハブ(ホイールの支持部)を押し引きしてタイヤの向きを変える。このラックに油圧ピストンを併設してギヤの歯で動かすラックを油圧でアシストしてやる仕組みだ。 この油圧を上手に増減させてやれば自然なフィールが実現できる。その制御はステアリングシャフトの途中に設けられたトーションバー(ねじり棒)によって行われる。トーションバーのねじれ具合によって油圧経路の開口面積が変わりラックを押す力が変わる。 しかしこの油圧はエンジンで作られているため、エンジンの作動中は一般的に3%程度のパワーロスが常に起こっている。ステアリング操作がいつ行われるかはわからないので、必要になってからポンプを稼働させていたのでは間に合わないからだ。
このロスを何とかしたい。そこで考えられたのがモーターを動力にした電動パワステだ。この方式なら使わない時は電気を流さなければロスは起きない。モーターはレスポンスが良いので、ステアリングが操作されてから動作させても間に合う。自動車メーカーにとってはそれ以上のメリットがあって、複雑なパイプをつないで油が漏れないように接続し、油を入れるという複雑な組み付け工程が要らなくなる。サプライヤーからシャフトやラックにパワステ機構組み込み済みのパーツを納品させれば、配線をつないで一丁上がり。組み立てコストがぐっと下がるのだ。 そして電動パワステにはもう一つメリットがある。ドライバーの操作に対する反力をいくらでも作り込めるのだ。モーターは油圧より遙かにレスポンスが良いので、必要とあらば1/100秒単位でアシスト量を変えられる。これを利用して、ドライバーに自在にフィールを返すことができる。問題はここからだ。自由度が上がった結果、どういうフィールを返すかというリファレンス(基準)がおかしいクルマが増えたのだ。 冒頭に述べた通り、舵角ゼロの時はステアリングが軽く、それが前輪の仕事量に応じて増えていき、タイヤの能力限界で手応えが減らなくてはならない、ところが何を血迷ったのか、切り始めが重く、途中で軽くなっていき、タイヤの仕事量と関係ない反力を返してくるクルマが増えているのだ。こうなるともうタイヤがどういう状態にあるのかはドライバーには一向に伝わらない。何故ならステアリングの重さはタイヤの仕事と関係なくモーターが作り出している雑音だからだ。