司書のコレ絶対読んで!「営繕かるかや怪異譚」小野不由美著…人生を見つめ直し、凝り固まった見方を変えていく主人公たち
姫路市立城内図書館・難波妙美さん
古い城下町を舞台に営繕屋「かるかや」を営む 尾端おばな という若い男性が様々な怪異現象を解決する小説です。営繕とは建物の修繕や造営をすることです。 【画像】難波妙美さん 霊能力はなく、鬼と戦うわけでもありません。建物などを修繕して〈障(さわ)り〉の悪影響をなくし、住人らと共存できるようにするのです。
六つの短編には、異なる主人公が登場します。何もかも失い根無し草のようになった女性や、親の事情で意に沿わない転校をした女子中学生、離婚して古里に戻ったシングルマザー――。彼女、彼らはそこで、異形のものと出合います。主人公たちはやがて、自身の葛藤や行き詰まった人生を見つめ直し、凝り固まった見方を変えていく。 「これは悪だ」と決めつけて一斉に攻撃することって、今の社会で多いと思うんです。この物語は「そうじゃない道も選べるんだよ」と教えてくれます。
石畳の小路など美しい描写も随所にあり、心がぎすぎすした時に読んでほしい。単行本を含め3巻まで出版されています。著者はファンタジー小説「十二国記」シリーズでも有名です。 私は物語を読むと、その世界に自分も存在している感覚になります。その中の考えや価値観を体感するのが好きで、ジャンルを問わず手にとってきました。司書資格を大学在学中に取得。一般企業に就職したのですが、「やっぱり司書になりたい」と思った時に地元の姫路市で募集があって。それから37年になります。 言葉の組み合わせで物語の世界がつくられ、泣いたり笑ったり、感動したり。大げさだけど奇跡だなって思うんです。司書として、本を読む人にそんな場を提供できればいい。この物語にはそんな力があると思います。(聞き手・坂木二郎)
【図書館メモ】
▽所在地 兵庫県姫路市本町68の258 ▽蔵書数 約54万7000冊 ▽特色 「中高生コーナー」を設け、校外活動体験を記した壁新聞、お薦め本のポップなど生徒の作品を展示。若者が図書館に来たくなる取り組みを続けている。 *街や学校の図書館で働く司書の皆さんに、オススメ本を紹介してもらいます