寿司チェーン「すしざんまい」が敗訴…マレーシアの同名店「Sushi Zanmai」に行って衝撃を受けたワケ
「すしざんまい」と同名の店がマレーシアに
マレーシアのショッピングモールなどにある日本食チェーン、「Sushi Zanmai」は、日本人が見れば、「あの人気店の支店か」と思うだろうが、日本の「すしざんまい」に行ったことがあれば、両者が同系列ではなさそうなのは、すぐに分かる。 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言 日本の「すしざんまい」はひらがなのロゴだが、「Sushi Zanmai」は漢字で「寿司三昧」だし、メニュー内容もまるで別物。マレーシアの方はテーブル席もあるが回転寿司であり、日本でおなじみの名物社長、木村清さんのイラストも見当たらない。 この二つの店、日本の「すしざんまい」とマレーシアの「Sushi Zanmai」の名称を巡った裁判があった。 これは両社が直接争った裁判ではなく、「すしざんまい」の喜代村が「Sushi Zanmai」をインターネット上で紹介した東京の食品輸出業社、ダイショージャパンを訴えたものだ。 国内の商標権は海外には及ばず、マレーシアの「Sushi Zanmai」は現地企業スーパースシ社が商標登録しているから名称の使用自体に問題ない。また、その由来がパクリであったかどうかは定かではない。たとえば日本にある町中華「来来軒」が、中国での商標を調べたりはしないのと同じだ。 海外には「スシマサ」、「スシヒロ」なんて日本でもありがちな名前はいくらでもある。ネット上で名前の一致だけで「盗用だ」と憤る人を見かけるが、これはその前提を理解していない。 ちなみに以前「すしざんまい」は、別業者「宅配専門寿司ざんまい」と商標登録で争ったことがあった。
味は海外初日本食の中でも本格的
今回の裁判は、日本の企業がマレーシア「Sushi Zanmai」を国境なきネット上で紹介した行為が権利侵害になるかどうかという裁判。一審では東京地裁が使用差し止めを命じたが東京高裁では逆転、「すしざんまい」側の請求が棄却された。サイトが日本国内の飲食店の消費者に広告する目的ではない、と判断されたのだ。 日本文化の人気に乗じて、海外企業が日本の商品などを模倣することはよくあるが、「Sushi Zanmai」について言えば、マレーシア人のほとんどは日本の「すしざんまい」を知らない。 07年に「Sushi Zanmai」が創業した当時は、すしざんまいがマグロ高値落札で話題となった12年よりずっと前の話で、たとえ名前を盗用したとしても、その効果があったとは思えないところがある。今回の裁判についてのニュースを、マレーシア人の記者や友人14人にシェアしてみたが、ひとりも日本の「すしざんまい」を知らなかった。 01年に創業した「すしざんまい」に対して「Sushi Zanmai」は07年、クアラルンプールのショッピングモールのサンウェイ・ピラミッドに1号店を開業。当時、寿司店はまだ多くはなく、都市部の高級店が主体だった。 95年からチェーン店を増やしていた回転寿司「SUSHI KING」が最も有名だったが、こちらはイスラム教徒でも食べられる「ハラル認証」のため、食材に豚肉や酒が使われておらず、生魚のメニューがサーモンしかないなど、寿司店としてのクオリティはかなり低かった。 そんな中、「Sushi Zanmai」は「オーセンティック(本格派)」を標榜。マグロやいくらもありながら、高級ではない「ちょうどよい」中級店としては画期的な戦略を展開した。 18年に筆者がマレーシアに取材拠点を持ったとき、他の寿司チェーンに比べて「より日本の味に近い」と感じ、それでいて値段も高くないところに好感度を持った。 また、高級店以外でメニューに「トロ」があるのも珍しかった。日本人スタッフの協力があるのも、誤訳やデタラメな日本語のないメニューを見ても分かる。 東南アジアでも日本食はかなりの人気で、中でも「日本大好き」な人々が多いマレーシアでは、ひとつの商店街に3つも4つも寿司店ができるほどだ。 近年は次第にクオリティの差が生じよりオリジナルに近い店が選ばれるようになっている。その意味で「Sushi Zanmai」は、日本人が行っても楽しめるレベルにあるといえる。 今争点となっている、その名称の由来がパクリかどうかは分からない。スーパースシ社に聞いても盗用は否定し、「贅沢なものを追及する意味」との回答だった。 最近はマレーシアからの日本旅行者が増えて、「日本にもすしざんまいという店があった」という報告がネット上で見られるようになり、「両社は無関係だ」という結論をリポートしている人もいる。 「両社のホームページを見れば、その違いは歴然としています。日本の公式サイトの店舗リストにマレーシアは含まれていません」(英語投稿の要約) 結局のところ、本家「すしざんまい」にとって業務上の不愉快な部分があっても、日本国としての損得を考えると、より本格的な日本食のおいしさを伝える店があることは日本旅行や日本文化への熱に繋がり、親日ムードを高めることに役立つ。 マレーシア人が「Sushi Zanmaiに行きたい」と言うのは最終的にプラスに働いている印象だ。 筆者個人の意見を言わせてもらえれば、まったく美味しくない、酷いレベルの日本食を出している店があり、マレーシア人から「日本のカレーライスがマズかった」という声を聞くことがあるが、その手の店のほうがずっと問題だ。 現在、すしざんまいは48店舗、Sushi Zanmaiは46店舗と数はほぼ同じだ。同名はややこしい話だが、ビジネス上の不利益さえなければともに和食文化の魅力を多くの人に伝えられる存在となっているとして、好意的に捉えたい。
片岡 亮(フリージャーナリスト)