志摩で「マリンテックサミット」 スタートアップ企業など全国から100人
マリンテック(海洋技術)に関心を持つ起業家や投資家、事業者や技術者、研究者らを対象にしたイベント「マリンテックサミット2024」が12月22日、阿児アリーナ(志摩市阿児町)で開かれた。主催は「マリンテックインキュベータ協議会」。(伊勢志摩経済新聞) 【写真】【その他の画像】志摩市で「マリンテックサミット」 同イベントは、地域や業界の枠を超えた参加者間のオープンコミュニケーションを通して、陸上養殖や藻場再生、海中ドローン、船の自動運転など最新のマリンテックなどの国内外における海洋技術の普及、現状の課題やその解決法、新しい産業創出の可能性などを共有し、その実現を目指すもので当日の参加者は約100人。 「マリンテックの未来を共に創る」のコンセプトを基に、当日のカンファレンスでは、「地域共創によるマリンテックインキュベート」について、チャレンジパートナーズ(兵庫県神戸市)代表の佐藤真希子さんがモデレーターとなり、鳥羽商船高等専門学校(鳥羽市)副校長の江崎修央さん、水中ドローンの開発などを行うFullDepth(東京都中央区)社長の吉賀智司さん、イノベーション戦略やスタートアップ支援に詳しい日本総合研究所(東京都品川区)研究員の東博暢さんがマリンテック業界の現状などを話し合った。 続いて鳥羽市で廃棄されたプラスチック素材の漁具や海洋プラスチックゴミを再資源化しようと取り組むREMARE(鳥羽市鳥羽)社長の間瀬雅介さんとベンチャーキャピタルのBeyond Next Ventures(東京都中央区)パートナーの有馬暁澄さん、常石商事(広島県福山市)副社長の津幡靖久さんが佐藤さんを交えて、実際に間瀬さんが取り組む活動とその資金調達について、アドバイスや事例などを紹介。 同協議会の事務局を務め、使われなくなった真珠小屋を再生させ、地域をより良くしようと取り組んでいるうみらぼ(志摩市阿児町)社長の川野晃太さんのコーディネートで、英虞湾を中心に着地型旅行企画や海上タクシー業務を行う伊勢志摩ツーリズム(志摩市阿児町)社長の西田宏治さん、船員の労務管理や運行管理などのデジタルサービスを行うザブーン(東京都港区)社長の戸高克也さん、小型船舶の自動操船の開発などを行うエイトノット(大阪府堺市)社長の木村裕人さんと「海の次世代モビリティ」についてさまざまな意見を出し合った。 最後は、「養殖・藻場再生」について、和歌山工業高等専門学校(和歌山県御坊市)生物応用化学科教授の楠部真崇さんがモデレーターとなって、海をはじめとした水域の自然環境を水槽で再現する環境移送技術に取り組むイノカ(東京都文京区)取締役の竹内四季さん、陸上養殖に力をいれるARK(東京都渋谷区)社長の竹之下航洋さん、海産物の冷凍食品や自ら新技術を取り入れた牡蠣養殖に乗り出す伊勢志摩冷凍(志摩市阿児町)社長の石川隆将さんがそれぞれの思いを語った。 江崎さんは「漁業者の問題を解決しようとしてもすぐには受け入れてもらえない。若い学生が何度も現場に足を運ぶなど地道な活動が重要」。吉賀さんは「マリンテックで産業を盛り上げるには地方にこそ課題がたくさんあるので有利。東京には海の課題がない」。東さんは「科学技術をどうやって商業化するか、3社くらいのマリンテックスタートアップ企業を(いい意味で)『えこひいき』し注目させることで、お金も企業も集まってくる」。佐藤さんは「経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム『J-Startup』の認定企業に選ばれると全省庁の入札に手を挙げられるなどの『えこひいき』を受けられる」。 間瀬さんは「銀行創業支援融資やエンジェルからの投資でここまできた。プラスチックの再資源化の研究に集中して時間がなく、資金調達のための仲介役がいるとありがたい。来年7月に3億調達したい」。有馬さんは「今までは東京でないとまとまらなかったが今では関係ない。6年前のアグリテックへの投資状況と同じ環境がマリンテックにも来ている。地方のスタートアップに注目している」。津幡さんは「知られていない世界(地方の問題、その解決に挑戦している企業)をそのままにしてはいけない 地方だからこその社会課題を知らしめる啓蒙活動も大切」。佐藤さんは「VCには銀行出身者が多いので、わからない領域には投資できないという問題もある」。 西田さんは「伊勢志摩・英虞湾は風光明媚(めいび)で観光需要はまだまだある。アートとテクノロジーを掛け合わせたサービスを提供できれば。船の自動運航システムにも注目するが最優先は安全であること」。戸高さんは「2年前までは船の運行管理 のDX化を進めることは難しかった。現場で船員に意見を聞いて進めていった」。木村さんは「創業4年目。海上モビリティ自動化への取り組みが本格化。まずは観光用途で動かしていきたい」。川野さんは「現在、使われていない真珠小屋が300件ほどあり、有効に利用できるように進めていきたい。そのためにも来年には船の自動運転の実証実験をしたい」。 竹内さんは「藻場は生物多様性のためのインフラになっている。ウミホタルの発光基質がコロナウィルスのスパイクタンパク質に反応するなど海の微生物などにも注目が集まっている」。竹之下さんは「陸上養殖はグローバルで見ると5%成長している。イギリスの漁師は儲かっているし、ノルウェーでは魅力的な就職先になっている。漁業は可能性のある産業。世界の平均水温は毎日過去最高水温で高水温問題を解決するため断熱水槽などエネルギー効率を良くする技術開発が重要。おいしい魚を子どもたちに食べさせてやりたい」。石川さんは「5年前からアワビ、サザエが取れなくなった。伊勢エビは昨年の5分の1の漁獲量。漁業者の高齢化など問題は多い。日本の食卓はじいちゃんばあちゃんが支えてくれているのでテクノロジーの力で楽にしたい。そしてテクノロジーとパッションで海の未来を変えていきたい」。楠部さんは「お節料理は国産の魚を食べよう。国産のものを食べて一次産業を支えよう」。 川野さんは「第1回目のマリンテックサミットが想像以上に良い雰囲気で終えることができたのは、参加者たちが前向きな姿勢で臨んでいるからだと思う。開催チームにも恵まれ感謝しかない。次回以降は、イベントに留まらず、コミュニティを丁寧に育てながら、インキュベーションやビジネスコラボ、研究発表を通じて、マリンテックから新たな事業創出を目指していきたい」と話す。 当日は鳥羽商船や鈴鹿、和歌山、函館の高等専門学校の学生たちの研究を発表するポスター展示のコーナーや企業の展示コーナーにも多くの人が集まっていた。翌日23日には、石川さんたちが取り組むカキ養殖場や川野さんたちが取り組む真珠小屋のリフォームした複合リトリート施設を見学するマリンテックツアーに約30人が参加した。
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