日本経済を活性化させる起爆剤「配当の損金算入」を今すぐ可能にすべき理由【マネックスグループ会長・松本大氏が解説】
「配当の損金算入」を認めれば株価は一気に上がる
現在、配当は損金算入が認められていません。つまり、会社にとって経費扱いにならないのです。なぜなら、株主に対する配当は、税引き後の利益の一部が充てられるからです。 もし、上場企業の配当の損金算入を認めたとしたら、いまの税率だとおおまかに言って1.5倍くらいまで配当を払うことができます。配当利回りが一定と仮定したら、株価はいまの1.5倍になります。 日経平均株価が3万円だとしたら、その1.5倍で4万5000円ですから、これだけで日経平均株価は、30年以上にわたって実現できなかった過去最高値を一気に更新できます。 株価がバブル後最高値を更新したとなったら、これはもう一気に世の中の視界が開けます。将来に対する希望が生まれてきます。 多くの人たちがポジティブな気持ちになったら、株価はその相乗効果によってさらに値上がりするでしょう。2倍、3倍増も決して不可能だとは思いません。しかも、配当の損金算入は、単なるルール変更ですから、それを実現させるうえで大きく仕組みや制度を変える必要はありません。 また上場企業であれば経理担当者がいて、さらに監査法人も入っていますから、このルール変更を行うために新たな組織を立ち上げたり、人員を増やしたりする必要もありません。 財務省が、「今日から配当の損金算入を認めます」と宣言しさえすれば、何のコストもかけずに簡単にできてしまうのです。 過去、さまざまな株価対策が行われました。古くは1992年、バブル経済の崩壊で株価が大幅に下落したときです。このとき、政府が立案した総合経済対策の一環として、年金福祉事業団や郵便貯金の資金を原資にして株式を買い、株価の下支えを行いました。 2013年以降は、日本銀行が株式市場における新たな買い手として登場してきました。黒田東彦前日銀総裁のもと「量的・質的金融緩和」が打ち出され、日銀がREIT(不動産投資信託)やETF(上場投資信託)を市場から買い付けることによって、市中に資金供給を行う金融緩和政策が行われたのです。 日銀がETFを買えば、株価は上昇しやすくなります。名目は「金融緩和」ですが、実質的には株価対策の一種とみていいでしょう。 ただ、これらの株価対策にはさまざまな問題があります。というのも、おもに株価が急落したときに行われるため、株価の暴落を回避する効果は期待できますが、市場の実態を反映しない株価形成になる恐れがあります。 その結果、ある程度株価が下げ止まったとしても、取引に参加している投資家を「いまの株価は公的資金の買いで下げ止まっているだけ。まだ下値がある」などと疑心暗鬼にさせてしまい、逆に買いが入りにくくなるのです。 また2013年以降、日銀が行っている量的・質的金融緩和に伴うETF買いも、日銀が自己勘定で大量のリスク商品を持つことが、中央銀行の信頼性を保つうえでいかがなものか、という批判もありました。 でも、配当の損金算入は、過去の株価対策に対して投げつけられたような批判にはつながらないでしょう。 なぜなら、公的資金を注入することなく、あるいは日銀に対する信認を損なうこともなく、税制のルールを少しいじるだけで実現できるからです。そして、それが株価を大きく引き上げることにつながるのです。 ※書籍の『松本大の資本市場立国論』は、すべての漢字にルビ(読み仮名)が振ってあります。著者の松本大氏が、専門用語の漢字が多く、経済の本を読むことを敬遠していた人にこそ、この本を手にとって欲しいと思っているためです。ルビを振ることで、意味がわからない言葉や専門用語をスマートフォンの音声検索で調べることもできます。漢字にルビを振るという小さなことで、読者が広がり、日本がよくなることへの願いが込められています。 松本 大 マネックスグループ会長 ※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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