知花くららさん自邸リノベーションのビフォー・アフター。ダイニングキッチンには民藝の器たち
ダイニングキッチンが我が家の中心
今回の1階の全体レイアウトは、そもそもダイニングキッチンのバックボードがデザインの起点でした。 愛してやまない民藝の器たちをディスプレーしつつ収納するためのバックボードを作り、アイランドキッチンからは、リビングで遊ぶ娘たちが見えること。これが、新しい家に私たち夫婦が一番に望むものでした。アイランドキッチンは特に夫の希望で。するとおのずと他のレイアウトも決まっていきました。 今では、ダイニングキッチンは我が家の中心。朝のキッチンから眺める海の景色や、カウンターで料理を作りながらお酒を楽しみつつゲストをもてなす時間、子供たちを見守りながらキッチンの片付けをするのも、最高の居心地。お友達が来て、食事を作ってくれることもしばしば。 ダイニングキッチンが人を繫いで、一つになるような感覚がいとおしいです。
頭の中だけに存在していた空間が、存在している充実感
また、リノベーションにあたり、図面と睨(にら)めっこしながら感じたのは、図面には描かれない空間のディテールを思いながら、デザインや素材を決定していくことの大変さ。 今は3Dという技術があってすごく便利になったけれど、リノベーションでは、「開けてみないとわからない」という箇所がいくつもあるので、現場初心者の私は何度も現場に通って、ディテールについて職人さんや現場監督さんに教えていただいたりしました。 「見えない空間を何度も歩く」。すべての決定にこんなにも緊張感があるなんて。大学の課題ではいくつも図面や模型を制作してきたけれど、今回はそれとは全然違いました。家族の暮らしがかかっているし、予算との戦いもあるし……。 引き渡し前夜、ほぼ仕上がった内装を眺めながら家の中を歩き回っていて、それまでは自分の頭の中だけに存在していた空間が、そこに存在しているのを改めて感じたとき、なんとも言えない充実感でいっぱいに。 何日にもわたって、現場で塗装を手伝ってくれた母が、出来上がったばかりの空間を眺めて「こんな空間が作りたかったんだね! 出来上がってみるとよくわかるね、すごいね」と言ってくれたのが嬉(うれ)しくて。空間に身を置くと、図面でも3Dの動画でも伝わらない何かがある。そして家具が入って、インテリアで飾られて、暮らしがスタートすることで、その空間はまた違う表情を見せてくれる。体温と暮らしのストーリーで満たされて、唯一無二の“ホーム”に。 家づくりって楽しい。
朝日新聞社