解決遠いロヒンギャ問題 窮地のミャンマーに接近する中国
ミャンマー軍によるイスラム系少数民族「ロヒンギャ」弾圧問題が再び国際的に注目を集めています。ジェノサイド(民族大量虐殺)を行ったとして提訴されていたミャンマー政府に対し、国際連合(国連)の司法機関である国際司法裁判所(ICJ)が仮処分命令を出したのです。ロヒンギャ問題は過酷な人権侵害として、欧米諸国から厳しい目が向けられてきましたが、2016年にミャンマーの民主化指導者だったアウン・サン・スー・チー氏が国家顧問兼外相として政権に入って以降も、解決の兆しは見えません。この問題はなぜ長引くのか。日本は今後どう対応していくべきか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【地図】ロヒンギャ漂流問題 ミャンマー少数民族の対立と迫害の歴史
このままでは切迫したロヒンギャを救えないと判断
国際司法裁判所は1月23日、ミャンマーの「ロヒンギャ」が重大な危機にあるとみなし、ミャンマー政府に対して、ロヒンギャ迫害を防止するためのあらゆる対策をとること、またその後の経過について4か月以内に報告し、さらにジェノサイドの有無に関する最終的な判決が出るまでの間、6か月ごとに報告することを命じました。 この命令には強制力こそありませんが、国連憲章の規定による拘束力があり、ミャンマー政府は従わなければなりません。ミャンマー政府はきわめて困難な状況に陥りました。
ロヒンギャとは、ミャンマーの西部に位置するラカイン州に居住しているイスラム教徒の少数民族です。統計が不備な状態であるため、その数は明確になっていませんが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告は「約100万人が主にラカイン州に暮らしている」と記しています。 ラカイン州ではロヒンギャと仏教徒の間で死傷者が出る激しい対立が続いてきました。仏教徒側には、米TIME誌の2013年7月1日号で「仏教徒テロの顔」として表紙を飾るくらい悪名をはせた僧侶もいました。一方、ロヒンギャの側でも武装勢力を組織して反撃に出ていました。 ミャンマーの国軍はラカイン州の治安維持が任務ですが、実際にはロヒンギャに迫害を加えたとみられています。詳細は不明ですが、欧米諸国ではそのようなイメージで見られています。 ミャンマー政府は欧米からロヒンギャ問題で強く批判されてきましたが、何もしなかったわけではありません。2018年7月には、ロヒンギャに対する残虐行為の調査のために「独立調査委員会」を設置しました。同政府はこの委員会の調査結果に基づき、ミャンマーの司法手続きに従ってロヒンギャ問題に対処していこうとしています。 しかし、ICJは、ミャンマー政府の方法では、切迫した危機に瀕しているロヒンギャを救えないと判断し、今回の命令を下したのです。 欧米諸国では、政府はもちろん、人権団体などもすべてICJを支持してミャンマー政府に対して批判的な姿勢を取り続けるでしょう。 そんな中で、イスラム諸国がミャンマー政府批判に加わったのです。今回の命令は西アフリカのガンビアが昨年11月、イスラム諸国を代表して提訴した結果です。