【矯正医が警鐘】マウスピース型矯正は「魔法の装置」ではない ワイヤー矯正との比較や選ぶ際の注意点
ワイヤー矯正と比較したマウスピース型矯正のメリット・デメリット
編集部: ワイヤー矯正と比較した場合、マウスピース型矯正にはどんなメリットがありますか? 糟谷先生: 一番は「装置が目立ちにくい」点だと思います。また、ワイヤー矯正と違い、マウスピース型矯正は患者さんの手で装置が外せるため、「歯が磨きやすい」「食事がしやすい」などが患者さんにとってはメリットかもしれません。 編集部: では反対に、ワイヤー矯正と比較した場合のデメリットやリスクを教えてください。 糟谷先生: 治療実績がまだ少なく、明確なエビデンスがない点だと思います。ワイヤー矯正はすでに何十年も行われてきた手法で、治療法のエビデンスも確立されています。一方で、マウスピース型矯正はまだ歴史が浅く、その効果を正しく評価できるエビデンスもありません。 したがって、専門家も手探りの状態で治療を進めているのが実状で、症例を慎重に選んでいく必要があります。 編集部: つまり、矯正を専門的に診てきた先生方から見ると「ワイヤー矯正のほうが予後も確実で安心」ということでしょうか? 糟谷先生: 治療をする側の観点ではまさにその通りです。マウスピース型矯正は症例の選択を誤ると、ワイヤー矯正よりも時間がかかったり、場合によってはうまく治らなかったりする場合もあります。 その点でいうと、治療法がすでに確立しているワイヤー矯正はどんな歯並びでも対応できますし、不安要素も少ないのがメリットだと思います。
結局どちらを選べばいい? ワイヤー矯正とマウスピース型矯正で迷った時の選び方のポイント
編集部: 以上の内容をふまえると、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正で迷った場合にどのように選ぶのがいいのでしょうか? 糟谷先生: まずは、自身の歯並びが本当にマウスピース型矯正で治せるのか、理想通りの歯並びになるのかを担当医によく確認することが重要です。マウスピース型矯正の良い所やメリットだけしか言わない先生は注意してください。 そのうえで、「治療中に装置を目立たせたくない」「ワイヤーをつけたくない」というご希望があれば、マウスピース型矯正を選ぶのも方法の1つだと思います。 編集部: マウスピース型矯正を選ぶ決め手は、やはり「治療中の見た目」ということでしょうか? 糟谷先生: 多くはそうだと思います。一方で、マウスピース型矯正は装置の取り外しや交換など、装置の管理のほとんどが患者さんに委ねられるため、患者さんの協力なしでは治療ができません。 したがって、自分で装置を着けたり外したりするのが煩わしいと感じる方は、ワイヤー矯正をおすすめします。 編集部: 自己管理に自信がない場合は、ワイヤー矯正のほうがいいわけですね。 糟谷先生: ワイヤー矯正は一度装置をつけてしまったら、あとは歯科医に任せておけばいいですからね。ただでさえ治療期間が長い矯正治療は、患者さんのモチベーションも1年程度しか持たないといわれています。 したがって、マウスピース型矯正を選ぶ際は最後まで自分でやり遂げる覚悟を持って臨んでいただきたいと思います。 編集部: 「装置が自分で外せる」というのも一長一短なのですね。 糟谷先生: マウスピース型矯正は「食事の時に装置が外せる」というのが利点の1つに挙げられますが、正しくは「飲食する時は原則装置を外さなければならない」です。 友人と外で食事をする時も装置を外して食後につけ直す必要があるし、たとえばデパ地下の試食などは安易に手を出せなくなります。治療中の見た目だけのためにそこまで頑張れるのか、努力できるのかもよく考えておく必要があります。 編集部: 最後に、読者へメッセージをお願いします。 糟谷先生: マウスピース型矯正はあたかも魔法の装置のように取り上げられることが多く、メリットだけに惑わされて安易に治療を選んでしまう方も少なくないようです。 しかし、マウスピース型矯正もワイヤー矯正も装置自体はただの道具の1つに過ぎず、実際に治療の成果を大きく左右するのはそれを操る術者(歯科医)の技量にほかなりません。 矯正治療を受ける際は診断が確実で、矯正治療に熟練した矯正歯科医を探すことが重要です。「安い」「早い」「キレイ」など聞こえの良い言葉だけでなく、治療のデメリットやリスクもきちんと説明してくれる矯正歯科医を選んでいただきたいと思います。