そういえばどうなった「NTT法廃止」の議論--急先鋒が落選で総務省が論戦にケリ(石川温)
NTT法の見直しを議論してきた総務省の有識者会議「通信政策特別委員会」は11月27日、最終報告書を公表した。 【画像】総務省の最終報告案(抜粋) NTT法見直しの議論とは NTT法の見直しについては、2023年12月に自民党が出した「NTT法を2025年目処に廃止して、NTT株式を売却して防衛財源に充てる」という意見が発端であった。 だが、KDDIやソフトバンクなどが廃止に強く反対。結果、今回の最終報告書ではNTT法の存廃に対しては判断は示さず、存続・廃止の両論を併記し、今後の検討を総務省に委ねる形に落ち着いた。 NTTにメリット・デメリット両方ある着地に NTTは現在、経営課題として固定電話の「全国一律提供義務」を抱える。全国あまねくすべての場所で固定電話が使えるようにすべきというものだ。 しかし、NTTでは老朽化したメタル回線の固定電話を、2030年代から段階的に廃止していくつもりだ。その代わりとしてIP電話の基盤となる光回線などのブロードバンド回線を全国に敷設しなければならない。今回の議論では、万が一、他の事業者がいない地域があった場合に、NTTに対して提供する義務を課すという「最終保障提供義務」に見直されることとなった。 また、従来は「固定電話」として、メタル回線や光回線といった物理ケーブルを用いた電話に限定されていた。一方、今回の見直しでは、携帯電話網を経由した「モバイル網固定電話」も許されるようになった。NTTとしては、全国あまねく固定電話を提供するという義務から若干、解放されるという点では、今回のNTT法見直しの成果があったといえるだろう。 ただ、一方でNTTにとっては厄介な「足かせ」も新たに追加された。例えば、NTT東西が保有する電柱や局舎、地下設備などの譲渡が「許可制」になったのだ。 実はこの規制が強化された原因は、NTT自身の「やらかし」だと言われている。2024年、携帯電話向け基地局のシェアリング事業を手がけるJTOWERという会社が、米国の投資会社に買収されてしまったのだ。 JTOWERが保有する基地局のうち、207基はNTT東西、7554基はNTTドコモが売却したものだ。NTT東西もNTTドコモも基地局を売却することで収入を得て万々歳のようだったが、その基地局が、将来的に米国以外の他の国の企業に売却される可能性が出てきてしまった。米国からシンガポール、香港から別の国に転売されてしまったらしゃれにならない。キャリア関係者は「NTTの資産を自由に他社に売却できるとなると、JTOWERと同じスキームで外資に渡る可能性が出てくる」と警鐘を鳴らす。 NTTには全国にNTT東西の局舎が7000棟あり、光ファイバーは約110万km、電柱は1190万本といったように「特別な資産」が存在する。それらがJTOWERと同じく外資に売却されてしまうと、経済安全保障上、大問題に発展するため、それを防ぐため「許可制」になったようだ。 「NTT法廃止の顔」2人が自民党外へ 総務省では今回の最終報告書をもとに、2025年の通常国会で関連法案の提出を目指して調整を進めていく。当初、自民党としては「NTT法は廃止ありき」で動いていたため、法案成立に向けて波乱が起きる可能性もあったが、昨今の自民党の状況を見る限り、このまますんなりと進んでいきそうだ。 そもそも、NTT法廃止の急先鋒は甘利明氏だったが、先頃の衆院選で落選してしまった。もう一人の旗振り役だった萩生田光一氏も裏金問題で無所属となり、なんとか当選したものの、かつての勢いは失っている。「NTT法廃止の顔」とも言うべき2人が自民党にいないなかで、今回の報告書が調査部会で議論されても、真っ向から反対するような力はいまの自民党にはなさそうだ。 KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏は「調査部会のメンバーも(選挙の結果で)変わるだろう。NTT法は廃止ではなく、いまの法体系で強化、緩和という方向性を失わない限り、良いのではないか。これから雑な議論にはならないだろう」と語る。 そもそも、今回のNTT法廃止議論は、経済産業省が起点とも言われている。NTTで、経済産業省ルートに強い人物から、経済産業大臣経験者である甘利明氏と萩生田光一氏に要請があったという。つまり、経済産業省と総務省の代理戦争的なバトルであったが、総務省が上手いこと押し切った格好で、NTT法を存続させる方向で落ち着きそうだ。 今回の議論も、自民党の裏金問題から岸田首相の総裁選出馬見送り、石破政権発足からの選挙、さらに103万円の壁問題という、世間がNTT法に関心を失っている最中に、総務省が一気にケリをつけた格好だ。総務省としては、監督官庁としてNTTを握っておきたい。そのためにもNTT法がなくなっては困るのだ。