「島を持っている人と一緒になりたい」が叶ってフィリピンの小さな島に移住。島でキルト産業を生み出し世界中に広げた女性とは
教えないスタイルから生まれた「ストーリーキルト」
1997年、順子さんがしばらく日本に帰国し、久しぶりにカオハガン島へ帰ってきたときのことだ。 「小さなキルトが私の部屋にたくさん積まれていたの。それを一枚ずつ眺めていたら、島の本当の生活が見えてくるようで。ひょっとしてこのキルトには、お話があるんじゃないかと思って、キルターたちに聞いてみたんです。そうしたら『あるよ』と言うんです」 キルターたちの日々の出来事や心の中の思いがキルトに綴られていると知って、順子さんは驚いた。「ある日、私はここで〇〇をした」というシンプルな内容だが、とても素朴で彼らの生活がリアルに感じられた。 「椰子の実を割る」というジョセフィン・ナノイさんの作品がある(写真)。 「友達3人で、近所の家の椰子の実をとって、林に行った。木の持ち主には怒られたが『返しなさい』とは言わなかった。私たちはとても喉が渇いていたので、すぐにココナッツジュースを飲みたいと思った。硬い実を岩で割って、盗んだことを『ごめんなさい』と心の中で言い、急いで飲んだ。本当に喉が渇いていたの」 少女たちの日常で起きたエピソードの一場面を表したキルトだ。ココナッツジュースを飲むまでの話を知ると、さらにキルトにおもしろみがわく。 ポリッサ・スマリノグさんの作品「彼が待っていてくれる」(写真)は初々しいストーリーだ。 「私の彼マリーノは漁師。舟も持っているし、アヒルも飼っている。鶏や犬もいる。大きな椰子の木も植えてあるし、家も新しく自分で建てた。そうやって私を待っていてくれる」 彼と楽しい日々を表現したキルトだ。上手に縫おうとか、綺麗に仕上げるとか邪念がなく、素朴さの中に美しい物語が感じられると、順子さんはいう。 こうして、カオハガン島での生活を綴る話が「カオハガンストーリーキルト」となった。 「教えないスタイルでここまできたことに、驚きました。島民から何を聞かれても「わからないよ」と答えていた私は、意地悪な先生だったかもしれない。でも『この道だけ』というのはないんですよね、いろいろな方法があるとわかりました」