酒税改正の大嵐!ビール業界の新商品競争「王者アサヒのスーパードライ」に挑むサントリーとキリンの戦略とは
コンビニやスーパーのビール売り場で、長年の定番商品に混じって「新商品」が存在感を見せている。ビール業界では長く、アサヒビールの「スーパードライ」が王者として君臨。他社は高価格帯のプレミアムビールや安価な発泡酒、第3のビールで勝機を見出そうとしてきたが、その構図が大きく塗り替えられようとしている。 【大図解】ビール戦線異状あり! ビール大手4社は新商品を続々投入「スーパードライ包囲網」
きっかけは2020年10月から段階的に始まった酒税改正だ。本誌・週刊ポスト(11月8日発売号では、〈ビール戦線異状あり!「スーパードライ包囲網」〉と題した特集を組んで激変する業界の最新の動きをレポートしたが、その端緒となった酒税改正は、安さを大きな強みに市民権を得てきた「第3のビール(新ジャンル)」の値上げにつながるものだ。 発泡酒や新ジャンルの税率が段階的に引き上げられ、逆にビールの税率が引き下げられる。そのため、消費者の側に「発泡酒や新ジャンルから元のビールに回帰する動きがあり、メーカー側もそれに応じて新たな定番ビールを発売する動きを見せている」(経済ジャーナリスト・永井隆氏)のだ。
追い風はアサヒとサッポロに強く吹いている
2023年10月にビールと新ジャンルの価格差がさらに縮まったことに、消費者は敏感に反応した。今年1~9月のビール大手4社の販売数量を見ると、減税されたビールについては前年同期比7%増の数字を残したが、新ジャンルに関しては同26%減に。「金麦」(サントリー)、「本麒麟」(キリンビール)など、消費者に広く浸透するブランドも生まれてきた新ジャンルだが、需要の頭打ちは顕著だ。 経済ジャーナリストの河野圭祐氏は、「減税の追い風はアサヒとサッポロに強く吹いている」と指摘した。「スーパードライ」「黒ラベル」などの定番商品の売り上げ比率が高いため、減税の恩恵が大きいと考えられるのだ。一方、発泡酒や新ジャンルの新商品開発で活路を見出してきたキリンやサントリーは、新たな“柱”が必要となった。 2023年4月、サントリーは他社の主力が集まる中価格帯(スタンダードビール)で「サントリー生ビール(サン生)」の販売を開始。高価格帯でヒットした「ザ・プレミアム・モルツ」とは別のフィールドで勝負に出た。若年層の受け入れを狙ったライトな飲み口などが奏功し、発売初年は目標を3割上回る399万ケースを売り上げた。 そこには、小売店の棚を獲得するための熾烈な生き残り競争や社内のキャンペーンも含めたサン生のファンを増やすための様々な取り組みがあった。 一方のキリンビールは、同じスタンダードビールの分野で今年4月に「晴れ風」を発売。大きな注目を浴びるヒット商品となった。9月末までに460万ケースを売り上げている。 同社はこの価格帯に「一番搾り」や「キリンラガー」を擁するが、そこからさらに新たな顧客層を開拓した格好だ。「業界の常識では“青系のパッケージは売れない”とされるなか、ターコイズブルーでいくまでには社内でも賛否があった」(同社社員)という声もあり、検討を重ねたの末に生まれたヒット商品だろう。 迎え撃つアサヒビールは、スーパードライブランドの強みを活かし、昨年10月にアルコール度数を3.5%に抑えたビール「ドライクリスタル」を投入。各社が新しい取り組みで棚を奪い合う熾烈な争いとなっている。