「スキー板の規定違反=高梨沙羅への嫌がらせ」は真実なのか…「なぜ試合前にチェックできない?」広がる疑問への“明確な答え”
「規定違反=高梨への嫌がらせ」論
また、筆者のもとに届いた問い合わせには、「恣意的なのでは?」というニュアンスも含まれていた。くだいて言えば、「高梨への嫌がらせから、北京での出来事が、そして今回の違反が生じたのではないか?」という話だ。 そのような発想になるのは、ジャンプにおいて日本が圧倒的な強さを誇ったあと、ルール改正が行われた影響で日本の選手が不振に陥ったと捉えられてきた経緯がある。具体的には1998年の長野五輪で日本男子が団体で金メダル、ノーマルヒルで船木和喜が銀メダル、ラージヒルで船木が金メダル、原田雅彦が銅メダルで強烈なインパクトを残したシーズンののち、ルールが変わった。実際、日本代表の中には、あたかも人種問題が内在するかのような発言をする選手もいた。 ただ、そのときのルール改正にあたって、日本側は賛同していた事実がある。その後も頻繁にルールは改正されてきたが、実際のところ、スキー板の長さの違反はともかく、スーツの規定違反は海外の選手も含めて珍しいことではない。恣意的に特定の国や選手を狙っているとは言えない。 失格者が出たケース、例えば大量に失格者が出た場合で言えば、北京五輪混合団体では高梨を含め、ドイツ、オーストリア、ノルウェーの計5選手が失格となった。 また、2019年11月、フィンランド・ルカで行われたワールドカップ男子でも5名が失格。試合終了直後は2位にいたリンビク(ノルウェー)、3位にいたプレブツ(スロベニア)も失格となり、順位が変わったことがある。それらをみても、日本を狙い撃ちしているというニュアンスはあてはまらない。
高梨が以前から語っていた“体重が落ちやすい”という課題
以前から高梨は体重が落ちやすいということを課題として語っていて、いかに体重を維持するかに腐心し、努力してきた背景がある。今回、体重が落ちるのを防げなかったのだろう。 ルールが細かく決められ、検査も厳密化してきたのは、選手側がルールぎりぎりのラインを狙い、少しでも飛べるような工夫を凝らしてきたこともある。ある意味いたちごっこのような状況が続いてきた結果とも言える。 他競技で言えば、F1でもレース後にマシンの重量計測が行われ、昨年のレースではトップでレースを終えたドライバーが失格となった件を思い出すが、F1並みに、ジャンプもルールを巡り精緻な取り組みがされているからとも言える。 公平性そしてルール改正において需要なテーマでもあった選手の安全性・健康を守る方向を大切にしつつ(かつては過度の減量などが問題となっていた)、試合でのルール運用の方法などは改善、あるいは一考の余地はあるかもしれない。 限界を狙いつつ、より遠くへ飛ぼうとするジャンプにあって、現在のあり方が最適解なのか、これからも模索が続けられるだろう。
(「オリンピックへの道」松原孝臣 = 文)
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