EU離脱再延期、イギリスは「6か月」で答えを出せるのか?
妥協案の提示、総選挙、2度目の国民投票?
イギリスのEU離脱期限は10月31日まで延長されたが、今後想定されるシナリオとしてはいくつかの可能性がある。スムーズなパターンとしては、与党保守党が最大野党の労働党と続けている離脱協定に関する協議の中で妥協案を策定し、それが英議会で可決された場合だ。英国はその妥協案をもとにEUと交渉を行い、10月末よりも早い時期にEUからの離脱を完了させることができる。メイ首相は今後EU側に提示する妥協案に関して、人やモノの流れ、アイルランド国境問題といった主要な部分の考えを変える用意はないと公言しており、現在のものに野党案を少し加えたものになりそうだ。しかし、この通りに事が進むかは疑問だ。仮に与野党間で妥協案が策定できたとしても、採決の段階で反対票を投じる議員が少なくないことは、これまでの流れからも明白だ。 加えて欧州議会選挙への参加をめぐり、英議会が猛反発する展開も予想される。メイ首相はイギリスが欧州議会選挙に参加することを条件に、EUからの離脱期限をさらに6か月先延ばしすることには成功したが、離脱期限が何度も延長され、さらに欧州議会にまで参加するとなれば、離脱派の議員から「国民投票で決まったことが何も尊重・実行されていない」と大きな反発が出ることは必至だ。欧州議会選挙への参加が見送られた場合、イギリスは自動的に6月1日に「合意なき離脱」に突入することになる。メイ政権としては、まずイギリスの欧州議会選挙への参加を確実なものにし、そこから離脱協定のEUへの妥協案の提示、離脱に関する再交渉、事態の打開を目的とした解散総選挙の実施のどれかを行う公算が高い。 2度目の国民投票の可能性についても触れておきたい。イギリスがEU離脱の是非を問う国民投票を再度行う場合、法的な拘束力のある国民投票を実施するための改正案が議会で可決される必要がある。 前回の国民投票の結果は法的拘束力があるものではなかったが、2度目の国民投票を行う場合、法的拘束力の有無をめぐって議論が白熱することは必至だ。ただ、どちらの形で進められても、最も懸念されるのは実施までに要する時間だ。離脱か残留かを再び国民に問う可能性は残されているものの、ロンドンのシンクタンク「英行政研究所」は、国民投票の実施には準備期間を含めると少なくとも21週間は必要であるとの試算を発表しており、10月31日までに国民投票を行う場合、5月末までには実施の可否について結論を出さなければならない。「2度目」が行われる確率は、現時点では極めて低いのではないだろうか。 イギリス国民からは新たな協議や国民投票、総選挙といったやり方ではなく、EUの離脱そのものを中止すべきだという声が上がっている。EU加盟国の離脱について定めているリスボン条約第50条の破棄を求める署名が2月、元教員の77歳の女性によって始められ、イギリス政府は3月26日に「政府が破棄を行うことはありません」という公式見解を示したにもかかわらず、破棄を求める署名の数は4月14日時点で600万人を突破している。メイ政権がEU離脱の中止に向けて動くとは考えにくいが、リスボン条約第50条の破棄は各国の同意を得る必要がなく、イギリス単独で行うことができる。