サッカーは遊び。遊びの頂点は驚きだからこそ勝ち負けだけじゃなく“何を求めて戦ったか”が一番面白い【中村憲剛×風間八宏対談 後編】
喜怒哀楽の「怒」はもう必要ない時代。もっと肩の力を抜いていい。
中村 サッカーを観る文化も変わってきているように感じます。 風間 そうそう。たとえばドイツでも俺たちがプレーしていたころはスタジアムには警察犬がいっぱいいた。火つけたり、騒いだり、過激なサポーターがいっぱいいたからね。でも今は子供たちがいっぱい観に来ていて、シェパードもいない。みんなで楽しむように欧州自体のサッカー文化が変化してきているし、進んでいるなって思うよ。だからこの葛飾区を中心とした南葛SCという新しい場所で、そういう文化をつくっていければいいよね。もちろん負けたら悲しい気にはなるんだけど、喜怒哀楽でいう「怒」はもう必要ない時代になっているんじゃないかな。日本も、もっと肩の力を抜いていい。肩の力が入り過ぎているようにも見えるから。 中村 風間さんの話には、ちゃんとしたストーリーがあるんですよね。楽しくなきゃダメじゃんっていう根本が明確だからこそ、フロンターレに来たときも選手もスタッフもみんな割と早く乗っかることができましたから。 風間 お客さんが感動して帰ってもらえれば、そのときの選手の高揚感を見ることができたら、監督としてはメチャメチャうれしいわけよ。そこを求めるクラブがいっぱい出てきたらいいなっていうのは個人的に思う。 中村 ずっと言ってますもんね、それ。 風間 名古屋グランパスの監督になったときも「俺は勝ちに来たんじゃない。豊田スタジアムに4万人を入れに来た」と言って、一応はそのとおりにしたから。 中村 「勝ちに来たんじゃない」って普通は言えないですよ。 風間 いや、そう言って具体的な数字を出すほうがクラブスタッフもみんなその目標に動いてくれるから。 中村 南葛での風間さんの取り組みはもう楽しみでしかないですね。 風間 俺としては、憲剛の監督を早く見たい。 中村 本当にプレッシャーでしかないですよ(笑)。 風間 ツネ(宮本恒靖)が日本サッカー協会の会長になって、憲剛たちも指導者になって、もう新しい時代が始まっていると思う。俺らの時代は基礎を一生懸命つくってきたり、いろんなものを掘り起こそうとしたりしたけど、憲剛たちは知識を持っているところからサッカー界に入ってきている。そういった人たちが中心となった動き出すこと自体、日本サッカーの成長につながるし、変化していくんじゃないかな。 中村 風間さんの時代からすれば僕らの情報量は確かに多いかもしれない。でも今の子供たちはそれこそ数倍多いですよ。 風間 確かに。セットプレーなんて選手たちのほうがよく知ってるから、南葛では、コーチと選手たちに「セットプレー委員会」をつくらせたくらいだから。 中村 若い選手は彼らのなかで引き出しがどんどん蓄積されていますからね。だから指導者としては彼らの持っているものを開いてあげることも、本当に今の時代のやり方かもしれませんね。 風間 憲剛は自分の発想を持っている人なので、どういうふうに指導者としてそれを表現してくれるのか、凄く楽しみ。情報をもとにしてというより、その情報にはない新しいものつくっていってくれるんじゃないか、と。日本の指導者がそうなっていけば、自ずとJリーグも世界から注目されると思うから。プレー同様に頭も柔らかいし、面白いサッカーをやってほしいな。自分が楽しめるサッカーを、ぜひ! 中村 またまたハードルが上がった(笑)。でも風間さんにそう言っていただいて本当にうれしいです。いっぱい金言をいただいたので、メモしておこうって思います。