サッカーは遊び。遊びの頂点は驚きだからこそ勝ち負けだけじゃなく“何を求めて戦ったか”が一番面白い【中村憲剛×風間八宏対談 後編】
風間八宏が想像するサッカー界の未来とは?
中村 風間さんはこれからのサッカーはどうなっていくと考えますか? 風間 サッカーの本質を見て、その質自体を上げていくというところに目を向けたら、まだまだやることってあるんじゃないと思うね。今のサッカーよりもまだ速くなるだろうし、求められる選手も変わってくるんじゃないかな。 中村 風間さんは使わないインテンシティっていう横文字がありますけど。 風間 今季のブンデスリーガで無敗優勝したレバークーゼンにジャカという中盤の選手がいるでしょ。ほかのクラブだったら彼を使わないっていうほうが多いかもしれない。あれだけ才能があっても単純に走るスピードがないっていう理由で。でも(レバークーゼンのように)周りがパスのコースを取ったり、相手を前に来させないようにしたりすれば、真ん中にいるジャカにスピードなんか必要ないんだよ。 中村 僕もフロンターレで3-4-3をやったときに風間さんに言われました。「前、後ろ、横はみんな足速いから、お前は真ん中でどっしりしてればいい。歩け」って(笑)。インテンシティとか走行距離とか言いますけど、やっぱり一番はボールをどれだけ正確に操れるかだと僕も思います。 風間 それらが大事というのは、相手がミスするからっていう発想に立つからなんだろうけど、本当にうまくなったらミスなんかしない。そうなったら運動量なんて発揮させてもらえないから。ボールを持って、強いパスを点で出せて、みんながそうやってサッカーしたら相手は絶対に追いつけない。だからこそ開発の余地はまだまだあるんだよ。見るべきは、明日の相手じゃないんです。ずっと自分たちが戦える術をつくっていくのがチームだと思っていて、いつでもどんな相手であっても戦えるように準備をすることしか俺は考えていない。まあ、ずっとそうなんだけど(笑)。 中村 その意味でも風間さんが南葛SCでやろうとしていることは、興味しかないです。クラブの公式YouTubeチャンネルで配信している指導の動画も拝見していますけど、この要素の練習増えたなとか、フロンターレでは言ってなかったなとか、新しい発見があります。ただ、付け足されてはいても、根本はまったく変わってない。先日、電話で話したときに「練習、(動画で)結構見せますね」と言ったら、「見たとこで分かんねえだろ」と(笑)。 風間 そうそう。指導者が(本質を)見えているかどうかだから。 中村 だから視聴している指導者の方が安易に真似するのは危険ですね。同じ練習をして、たとえ同じことを言っても、多分違う現象になるので。あの指導ができるのは結局、風間さんしかいない。それと、動画を見てオッと思えたのは選手以外の人たちにも教えていること。クラブとしてのカルチャーをつくろうとしているのが伝わってきます。 風間 女子やユースを含めていろんな指導者がやってくるからね。自分としてはメソッドがだいぶできてきたから、興味あるところがあれば海外に伝えたっていい。南葛からは(トップチームの監督も、テクニカルダイレクターも)両方やってほしいという話でオファーがきたし、世界で有名な『キャプテン翼』のチームなんだから世界にも出やすい(笑)。面白いことがやれそうだなって思ったから引き受けたんです。 中村 自分にとっても面白いこと、ワクワクすることだから……実に風間さんらしい(笑)。サッカー専用スタジアムの計画も進んでいると聞きました。 風間 それも楽しみだよね。観客はスタジアムで何が楽しいかと言ったら、自分たちができないようなプレーを見ようとやってくるわけです。どれだけ凄いことをやってくれるのかっていう。フロンターレでも〝川崎劇場〟って呼ばれたけど、そういう最後まで何が起こるかわからない感動みたいなものがあればスタジアムに足を運んでくれる。サッカーは遊びなんだから、やっている選手も楽しんでプレーしないと。そういった空間をつくるには、結局、技術を高めなきゃいけない。遊びの頂点にあるのが驚きだと俺は思うから。だから勝ち負けにこだわるだけじゃ面白くない。何を求めて戦ったかが、一番面白いところなんじゃないかな。