「実は年明けが最も多忙」「私服が派手」…知られざる「葬儀屋」の裏側 「家族を“遺族”と呼んでしまうことも」
葬儀屋の繁忙期
葬儀屋に話を戻そう。 他業種の例に違わず、この業界からも聞こえてくるのが「人手不足」だ。世間の少子高齢化の影響ももちろんあるが、やはり長時間労働で体力仕事というのが大きい。 今回話を聞いた5人の葬儀業関係者も「長時間労働になりやすい」と口をそろえる。 「10年ほど前までは通夜から翌日の葬儀までの『36時間勤務』もありましたが、近年は働き方改革もあり、夜勤の日は夕方出社で翌朝退社になっています。しかし、36時間勤務の葬儀屋さんはまだ多いのでは。ほとんどの葬儀屋さんは何らかの労働基準法違反をしていると思います」 「葬儀の小規模化、老後不安などでお葬式にお金をかけなくなり、単価が下落。安い給料で長時間働かせる労働環境に拍車がかかっています。その結果、インバウンドで潤っているホテル業界などの他業種への転職が顕著になっています。また、残ったとしても、顧客から感謝される仕事ではあるので、やりがい搾取が成立しているのが実情です」 さらに、人がいつ亡くなるのかは予想できないため、仕事が突発的に発生しやすいというのも同業界の特徴だという。 「病院からの遺体搬送依頼や遺族との打ち合わせなども、前々から日時を決められるものではありません。そのため休みが取りづらく、人と約束を交わしたり、交わした約束を守ったりすることも難しい」 葬儀屋に繁忙期などはあるのだろうか。 「冬季は夏季に比べて死亡者が数割ほど増えます。特定の曜日が忙しくなることはありませんが、友引は火葬場が休みなので、次の日は比較的忙しくなりますね。また、年末年始は火葬場が休みの場合が多いので、年明けが年間でもっとも忙しくなります」
遺体の修正作業
葬儀屋の大きな仕事として、一人ひとりの遺体に向き合うことがある。身長や体重など、人の体には個体差があるが、それぞれの遺体に、どのように対応しているのだろうか。 「一般的には6尺(約180cm)の棺が使われますが、遺体は死後硬直するとつま先が背伸びをしたようになるため、10~15cmほど余裕をもったサイズを選んだ方がいいとお伝えしています」 「遺体の腐敗を防ぐためにドライアイスが使用されますが、その質量が違うと、冷え方や温まり方が違うので、体重の20~30%量を目安に、個人差や環境差に合わせて冷却処置をしなければなりません」 「力士や体格のいい方の場合、棺は特注したものを用意します。しかし、棺は用意できても火葬炉に入らないことがある。その際はご遺体を布団などに寝かせてお入れすることもあります。ただ、最近の火葬場は大きめの火葬炉が設置されているので、大概対応できると思います」 逆に子どもや、小さい体の遺体にはこんな工夫が。 「納棺後、階段しかないマンションから棺を傾けて出棺しなければならないような場合には、体が下がらないように足元や腰の周りに詰め物をします」 さらに、火葬まで遺体の状態を保つ手段には、ドライアイスで冷やすほかに、遺体を殺菌消毒し、体液の吸引・防腐剤の注入などを行う「エンバーミング」という作業を施すケースもある。 このエンバーミングはアメリカで発展した技術とされており、欧米などでの施術率は高い。一方、日本では死亡してから火葬までの時間がそれほど長くないため、諸外国ほど浸透していないが、亡くなってからすぐに葬儀ができないなどのケースでは選ばれているという。 また、海外や遠方から遺体を空輸する際などは、ドライアイスでの対応ではなくエンバーミングが必要になる。飛行機での輸送では遺体は荷物扱いとなり、安全上の問題から、原則的にドライアイスが使えないからだ。 さらに、事故や事件に巻き込まれた遺体など、損傷のある部分を修復するのもエンバーミングの1つだ。 「葬儀に参列する親族や友人の記憶にある生前の姿でお別れをさせたいという遺族からの要望は少なくありません。また、施術後は最大で50日程度状態が保たれるので、ゆっくり故人とお別れがしたいという方からのご要望も増えています」 もちろん、すべての遺体にエンバーミングが必要になるわけではない。 「ドライアイスと遺体メイクでなんとかなることも多いので、遺体の状況、火葬までの日程、遺族の心情や経済状況をよく伺って提供しています。エンバーミングの押し売りが問題になっているので、遺族への説明、同意、納得が大切です」