地元の味覚が楽しめる“役所メシの旅” ──武蔵野市「武蔵野地粉うどん」
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「社員食堂」がある会社のように、市役所や区役所といったお役所にも食堂がある。うどん・そばやカレーといった定番メニューに加えて、地元の食材や名物グルメが味わえる食堂も。そんな地元の味が楽しめる役所の食堂を探訪する当連載企画。第5回は、東京都武蔵野市役所内の食堂「さくらごはん」で、郷土料理の「武蔵野地粉うどん」を味わってきた。
太い。ざるの上、盛られている白いめんは他の地域のうどんに比べると太めで、存在感たっぷりだ。箸で持ち上げてみると、揺れるめんからは重量感とともに、強い弾力が伝わってくる。肉汁に少しだけつけて、口の中に入れてみた。 噛み締めると、めんが歯を押し返してくる。コシの強さは、さぬきうどん以上ではないだろうか。もちもちっとした食感で、口の中に小麦の香ばしい風味とうま味が広がる。充実した食べ応えに、「おれがうどんだ」と言わんばかりの強い自己主張を感じる。 ざるの横の奥にあるのは「糧(かて)」と呼ばれる具で、この日は、茹でたキャベツと市内産のコマツナ。口に含むと、家で調理した時よりも味が濃いように思われた。さくらごはんを運営する社会福祉法人武蔵野の小川託矢さん(46)の話では、熱風と蒸気で調理するスチームコンベクションオーブンを使っているため、野菜本来の味が出ているという。
肉汁のなかにつかっているのは、豚の肩ロース肉。武蔵野市の友好都市である山形県酒田市の畜産家から仕入れた庄内豚だという。肉汁から取り出すと、小さいながらほどよい厚みがある。うどんとともに食べるべきなのだろうか。だが、どのような味がするのかという期待感が抑えきれず、単独で口に含むことに。ひと噛みごとに、肉のうま味が口内に充満する。豚肉らしい風味が強く、野性味が強いように思われる。 こうした自己主張の強い面々を、市内の老舗うどん店から伝授されたレシピをベースにして作られた肉汁が、「肉汁武蔵野うどん」という1つのメニューにまとめあげられている。小鉢が2品ついて、税込600円。希望すれば、めんを柔らかめに仕上げてくれる。 「武蔵野地粉うどん」とは、東京都西部から埼玉県西部にかけての、いわゆる「武蔵野」と呼ばれる地域で栽培された小麦を使ったうどんを指す。かつては、武蔵野市一帯でもさかんに小麦が生産されており、旧家では冠婚葬祭の際に地元産の小麦粉でうどんを打ち、客人にふるまう習慣があったとされる。