2030年「トラック輸送費」34%アップの衝撃! この数値は妥当か?不当か? 中小の運送会社は本当に持ちこたえられるのか
値上げを阻む多重下請けの解消
一方、読者のなかには、 「本当に運賃がそんなに上がるのか」 と疑問を感じる人もいるだろう。実際、足元ではドライバー不足が深刻であるにも関わらず、運賃値上げの動きは鈍い。これまでも、経済環境が厳しくなると 「大手主導で値下げが進む場面」 が繰り返されてきた経緯を踏まえると、業界関係者が疑心暗鬼になるのも理解できる。大手運送会社は1次、2次下請けなどの形態で多数の傭車(ようしゃ)を専属に近い形で抱えている。このような日本的な固定的な多重下請け構造が圧力となり、値上げを阻む要因となってきたといえるだろう。 ただ、近年のデジタル化の進展により、トラック輸送分野でもスマホ等を使った「デジタルマッチング」の仕組みが浸透しつつある。荷主と実運送会社との間で直接マッチングが可能になれば、多重下請け構造は自然に解消に向かう。 これに加え、この4月に成立した、いわゆる「改正物流法」により下請け規制が導入されることも影響する。この新しい規制では、元請けは荷主に、実運送を担うトラック会社の社名を通知することが求められる。これまで多重下請けによる 「中抜き」 はブラックボックスだったが、この構造が白日のもとにさらされることになるのである。このような背景を踏まえると、トラック運賃は需給逼迫をダイレクトに反映して、上がりやすい環境に変化する可能性が高い。
バラ色ではない運賃アップ
賃金が上がるのは、ドライバーにとっては間違いなくプラスだが、中小企業の多いトラック運送業にとっては厳しい側面もある。物価上昇には、 ・値上がりした原価が上乗せされることによる「コストプッシュ」 ・需要が増えることによる「デマンドプル」 と呼ばれるものの2種類がある。では今後起きる運賃上昇がどちらに近いかといえば、コストプッシュである。もちろん、トラック不足による値上げというデマンドプルの側面もあるが、基本的にはドライバーの賃上げが原因だからである。 需要増による値上げは問題ないのだが、コストプッシュによる値上げは、中小企業にとってデメリットも大きい。なぜなら中小零細ほど人手不足が深刻であり、コストプッシュの影響を強く受けるからである。 中小の人手不足が深刻であるのはなぜか。その最大の理由は、求職者、特に若手が 「表面的なイメージ」 で会社を選ぶ傾向が強いためだ。名前の知られた大手は比較的低い賃金でもドライバーが集まるが、中小は求職者から問い合わせをもらい、面接にこぎ着けるだけでも難しい。トラック業界でもウェブの有料媒体が求人の主流だが、多額の募集コストを掛けないと人が集まらないのが中小の現状だ。 今後、人手不足の状況がさらに悪化すると、中小では値上げによるメリットよりも求人コスト増大のデメリットのほうが上回ってしまう可能性がある。