尹大統領の電話機とゴルフに罪はない【コラム】
パク・ロクサム|ジャーナリスト
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の国民向け談話から半月近く時が流れたが、その余波はまだ消え去っていない。野党代表に対する検察の執拗な起訴は、数日前に初の一審での実刑判決につながったものの、地位の役割と責任という根本的な面で、尹大統領が与えた衝撃には勝てない。 頭を下げて謝罪する尹大統領の姿に感動した人も、少ないながらいたようだ。だが、曖昧ではなく具体的な謝罪の意向を問われると「しっかりと指摘してくれれば謝罪する」と言った大統領に、大多数の国民は愚弄されたと感じた。その代わり、かつて「尹錫悦の電話機」を用いて「尹錫悦ごっこ」をした「尹錫悦の妻」がいたことを、はっきりと確認させてくれた。候補公認介入をにおわせる自らの通話の肉声や国政壟断をうかがわせる様々な情況などを認めることはなく、大統領選挙後に電話機を変えなかったのが誤りだったと言うのみだった。そして、本当に先日、尹大統領は電話機と電話番号を変えることにしたと明かした。電話機が大罪を犯したというわけだ。 大統領に徹底的に無視されたという屈辱、同じようにこれから2年以上も暮らさなければならないという悲しみと恐怖、それでもまだ我関せずといった大統領の水準を再確認した挫折感や怒りなど、複雑な感情を一度に感じたあの日以降、週末の光化門や市庁前に集まってくる市民の数がぐんと増えた。尹大統領が自らあおった結果だ。 本当に恐れを感じる部分は別にある。襲い来る巨大な暴風雨に対する徹底した準備不足だ。今、世界は政治、経済、思想など、あらゆる分野で大転換期を迎えている。米国の大統領選挙の結果は大転換の具体的な触媒だ。大転換期の世界の運営秩序は、米国中心の一極体制から多極体制へと転換せざるを得ない。気を引き締めて準備しなければ、国と国民は旧韓末の悲惨な境遇への転落を繰り返すだろうということすら懸念される。 すでに、「参観団」の名でウクライナに弾薬担当官などの5人の軍人を派遣したという疑惑が持ち上がっている。ウクライナに対する防衛用兵器の支援についての議論も具体的に進められている。米国とロシアは終戦のあり方を論議すると表明しているところに、今さら他の地の戦争に首を突っ込もうという外交安保政策の方向性は、全面的な修正が必要だ。戦争ムードを朝鮮半島に持ち込もうというもの以上でも以下でもない。対北朝鮮政策で実用的なアプローチをする米国の新政権によって、韓国が排除される結果へとつながる可能性が高い。 そんな中にあって、尹大統領がトランプ次期大統領との「ゴルフ外交」のために8年ぶりにゴルフクラブを握ったという記事を目にして、内心うれしかった。一時、支持率が20%を割り、弾劾が求められてはいるものの、尹大統領も韓国の利益の貫徹のために「最後の2%」まで綿密に準備する姿勢を見せてくれたなら、結果はどうあれ、どれほど幸いなことか。 しかし、そうではなかった。米大統領選挙の結果が出る前の富川(プチョン)火災死亡事件の際も、平壌(ピョンヤン)無人機事件を受けて北朝鮮が対南強硬声明を発表し軍が非常事態に陥った日も、ゴルフ場に行っていたという疑惑が相次いで持ち上がっている。 明白な嘘だった。台風前夜のような状況に置かれている国家的課題を弁解と偽りの釈明の手段にしたという事実からは、悲しみを通り越して怒りがこみ上げてくる。津波の押し寄せる海辺で貝殻を拾いながらのんびりと散歩しているようなものだ。電話機がそうであるように、ゴルフそのものに何ら罪はない。この厳しい時期に、絶体絶命の公的課題と責務を担うにはあまりにも不十分な姿勢を見せる大統領の存在そのものが罪であり、国家的災厄だ。 いずれにせよ、5年の任期の折り返し点は過ぎた。しつこく野党代表を起訴して、仮に刑務所に送ることに成功したとしよう。それでも民意は戻ってくるどころか、逆に怒りと抵抗が強まるばかりだ。検察を握って野党と国民を抑圧するやり方、問題が明らかになる度に虚偽の釈明を乱発するやり方では、残りの2年半は持ちこたえられない。 それでも百歩譲って米国、ロシア、中国、北朝鮮との関係を再確立する緻密な対策を打ち出したら、これまで犯してきた多くの失政と無能、腐敗をある程度は相殺するほどの功を立てたと認めてもよいだろう。その過程では、韓国が国際外交秩序の中で絶対に得るべき国益の最大値についての社会的合意を作り出さなければならない。どうか省察する気持ちで、新たな秩序を準備してもらいたい。実際にはたいして期待してはいないのだが。 パク・ロクサム|ジャーナリスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr )