【社説】揺らぐ経済大国 成長と分配実現するには
4月13日に開幕する大阪・関西万博は、日本経済の現在地を表すイベントになるだろう。 万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)によると、184日間の想定来場者数は2820万人で、1970年の大阪万博の6422万人を大きく下回る。時代背景が違うので単純に比較できないが、活気の差を感じる。 68年に米国に次ぐ2位となった日本の名目国内総生産(GDP)は、2010年に中国、23年にドイツに抜かれた。インドの急成長で5位になるのは時間の問題だ。 国民の豊かさを示すとされる1人当たり名目GDPは、主要7カ国で最も低い。経済協力開発機構(OECD)の38カ国中22位で、韓国よりも低位だ。「経済大国」の看板は揺らいでいる。 長期低迷を脱するために今年こそ、成長と分配の好循環を実現しなければならない。 ■中小の賃上げが焦点 まず重要なのは物価高に負けない賃上げを実現し、中小企業や地方に広げることだ。 今年の春闘で、労働組合の連合は「5%以上」、中小企業の労働組合は「6%以上」の賃上げを求める方針だ。経団連の十倉雅和会長も「賃金引き上げの力強いモメンタム(勢い)の定着に貢献したい」と方向性は一致している。 働く人の約7割を雇用する中小企業の賃上げが焦点となる。賃上げを持続させるには、取引の適正化を通じた労務費の価格転嫁が不可欠だ。 GDPの5割強を占める個人消費を押し上げるためにも、大企業には中小企業との取引条件の見直しを、消費者には商品値上げへの理解を求めたい。 パートやアルバイトら非正規労働者の待遇改善も進めなければならない。賃金全体の底上げには、全国平均で時給1055円の最低賃金の引き上げが有効だ。 石破茂首相は、前政権が決めた「30年代半ばまでに1500円」の目標を20年代に前倒しした。年率7%台の引き上げが必要で、地方の中小零細事業者に対する政府の支援策が欠かせない。 昨年11月の政労使会議では労使から戸惑いの声が漏れたが、国際的に見劣りする最低賃金の水準は改めなければならない。 最低賃金を決める制度も見直したい。都道府県別のため、最下位を避けるための競争が激しくなっている。昨年は知事が介入し、国の審議会の目安を大幅に上回る県があった。 首都圏と地方の賃金格差は放置できない。海外に倣い、全国一律にすべきだ。 ■製造業偏重の転換を 輸出企業が海外生産を強化した結果、円安による製造業の輸出押し上げ効果は薄れている。 11年以降は原発停止によるエネルギー資源の輸入増などで貿易赤字が定着しつつある。円安になるほど赤字が膨らみ、国富の海外流出が増える構図だ。非製造業を含む全産業でみれば、円高は企業収益にプラスとの試算もある。 ホンダと日産自動車の経営統合協議入りではっきりしたのは、海外の新興メーカーの台頭で、日本経済の屋台骨である自動車産業を取り巻く環境が一変したことだ。将来も盤石とは言い切れない。 規制緩和やスタートアップ支援強化などで外貨を稼げる競争力のある産業を育て、自動車頼みの状況から脱すべきだ。 漫画やアニメなどのコンテンツ産業は有力候補だ。大阪・関西万博の日本館には、海外でも人気のキャラクター、ハローキティやドラえもんが登場する。 コンテンツ産業の輸出額は約4兆7千億円で、半導体産業(約5兆7千億円)や鉄鋼産業(約5兆1千億円)に迫る規模である。 コンテンツ産業の世界の市場規模は半導体産業や石油化学産業を上回る。日本の強みを生かさない手はない。 製造業出身者のほぼ指定席だった経団連の次期会長に、筒井義信日本生命保険会長が就任する。円安誘導など製造業偏重の発想を転換する機会にしたい。
西日本新聞