【文理融合】「榎本石鹸」~明治初期の記録を読み解き、当時の製造法で復刻 沼田ゆかりさん
その榎本の「石鹸製造法」を読み解き、その手法で石鹸を復刻することで、榎本の化学者的特性を、歴史学と化学の双方から分析しようというのが、このプロジェクトの狙いです。というのも、榎本の化学志向は、化学史・科学史の立場から言及されていました。でも、表面的なエピソードとしての扱いにとどまり、同時代的な化学者として、最先端の水準を本当に持ち合わせていたのかは明らかではなかったからです。
では、「榎本石鹸プロジェクト」をなぜ小樽商科大学で行うのか――。本学には、小樽高商時代に授業の一環として、学生たちが学内に設置された石鹸工場で「高商石鹸」を製造し、販売していた伝統があります。この伝統を踏まえ、実学重視の開学理念、それは教育倫理や商学倫理になりますが、それとの関係や自校史の中に、このプロジェクトを位置づけ、本学で実施する意義を見いだしました。そのうえで、石鹸の復刻によって得られた成果の一部を、「榎本石鹸」という形で、地域活性化のために生かそうと考えています。
化学・歴史学・倫理学、近くないから協業の意義がある
―なるほど、石鹸作りは小樽商科大学の伝統だったのですね。
『小樽高商の人々』『小樽商科大学百年史 通史編』によると、小樽高商では、大正9(1920)年に石鹸工場を設け、「企業実践」という科目の中で石鹸を製造していました。大量生産に向く「釜だき製法」で生地を作り、「機械練り法」で成形していたようです。また、石鹸の原材料には油脂が欠かせませんが、牛脂と、小樽で豊漁だったニシンの油を混合して使っていたと考えられます。小林多喜二や伊藤整など、本学出身で知られる文豪たちもかつてこの授業を受けていました。
―化学と異分野が協業する意義は、どのようにお考えですか。
まず、役割分担をご説明しますね。化学の役割は、「石鹸製造法」にできるだけ忠実に石鹸を復刻し、実験に基づいた内在的分析によって榎本武揚の化学の学問的水準を明らかにすること。歴史学の役割は、古文書である「石鹸製造法」を読み解くこと。さらに、それ以外の文献も網羅的に調査し、化学の内在的分析結果を踏まえたうえで、歴史的評価を行い、榎本の学問的志向や水準を明らかにすることです。