「東京ドーム約3個分の“森”をオープン」「ソラマチでは新鮮な野菜を使った健康ランチが食べられる!」…。実は売上減少の「養命酒」が狙う“起死回生”の秘策
この喜びは、スピード感ももたらした。もともと、養命酒製造は老舗企業らしく、穏やかな社員が多い傾向があった。養命酒は400年のベストセラーとして安定しているし、新製品を開発するにしても、その完成と発売、さらに結果がでるまでには、長い長い時間が必要だからだ。 そんな「ガツガツしていない」企業風土は居心地がいいながらも、変革が進まない原因にもなっていたという。しかし、くらすわの店舗での接客を通じて、スピーディーな判断と行動が求められるようになり、組織は徐々に活性化していった。
■商品開発の成功が、組織変革の追い風に 特筆すべきは、商品開発の成功が、組織変革の追い風となったことだろう。徹底的においしさと安心にこだわったくらすわの商品は、経営陣を含む、社員のファンを生み出したのだ。そうして気づけば、多くの社員が一度はくらすわの森へ足を運んでいた。 「過去には、どんな施設ができても、強制でない限りそんなことはありませんでした。社員たちが自分で商品を購入して味わい、店先でお客様が商品に群がる様子を見たことも、くらすわへの協力につながったと感じています」と福盛さんは感慨深げ。
今では、くらすわの森に隣接する駒ヶ根工場勤務の社員も、駐車場整理や誘導を手伝い、全員で客を迎えている。「くらすわの森ができてから、社員がくらすわのほうを向き、会社が変わろうとする意思を感じ始めているのではないでしょうか。穏やかな企業風土はそのままに、全社的に改革へ突き進む体制になりつつあると感じています」。 昨年8月に行われた諏訪湖の花火大会では、出店した縁日で社員が接客し、まるで高校の文化祭のような活気と一体感に包まれた。それは、かつての養命酒製造では見られなかった光景だった。
どんな企業であっても新規事業を行う際には、社内の理解や根回しが必要だ。だがくらすわのケースでは、「おいしい、体にいい商品」が最も感覚に訴えるプレゼンになったのかもしれない。 くらすわの森のオープンから取材時で約1カ月。今も「オープン景気」の状況が続く。利用者は時間帯によりさまざま。平日は主婦が多く、土日は家族連れや年配、若い人もと幅広い。「それだけのお客様が訪れ、喜んでいただける施設がある」ということに、くらすわで働くスタッフは誇りを感じているとのことだ。