「東京ドーム約3個分の“森”をオープン」「ソラマチでは新鮮な野菜を使った健康ランチが食べられる!」…。実は売上減少の「養命酒」が狙う“起死回生”の秘策
■「なぜそんなに投資をするのか」反対の声を越えて とはいえ、そこまでの道のりは決して平坦ではなかった。最初にくらすわ事業を始めたのは、福盛さんを含めてわずか5人。事業開発を担ったメンバーが、そのまま残ってスタートさせたのだ。 管理、事務系の仕事は、他部門の協力を仰いだ。そこから地元採用を中心に仲間を増やしていき、「くらすわの森」ができた今は、パートを入れて200人以上がくらすわ専属スタッフとなっている。
「当然、反対していた人は大勢いると思います。というか、起ち上げチームのメンバー以外、協力者、理解者はいないと思っていました」と福盛さんは苦笑いする。「うまくいくかわからない店に、なぜそんなに投資をするのか」「もっとほかにやることがあるんじゃないか」という声を持っている人は、社内にも投資家にもいたのではないか、と。 「何度説明してもなかなか理解されず、各部門長のところに伺って、何回話したかわかりません」と当時を振り返り、肩を落とす。
それでも、「養命酒以外の柱をつくり、ファンを増やす」という、事業をやる意義、目指す方向を、まるで念仏のように語り続けたそうだ。 そんな逆風の中でも事業が途絶えることなく進められたのは、経営陣の「第二の柱として賭けよう」という意思が揺らがなかったからだという。 ■現場から始まった組織の変革 事業開始から5年が経過する頃。ようやく、くらすわは「あって当たり前」の存在として社内で認められ、少しずつ他部署との協力体制も生まれていった。
その最も大きな要因となったのは、「目の前に喜んでいるお客様がいる」という、メーカーにとっては刺激的な体験だ。B to C事業ならではの、顧客からの目に見えるフィードバックが、組織に新鮮な息吹をもたらしたのだ。 「養命酒が薬局で1本売れても、目に見えないので実感できません。ですが、努力して開発したパンが目の前で売れるとうれしい。その積み重ねを経験できたから、今があると思います」。福盛さんは安堵を滲ませる。