「東京ドーム約3個分の“森”をオープン」「ソラマチでは新鮮な野菜を使った健康ランチが食べられる!」…。実は売上減少の「養命酒」が狙う“起死回生”の秘策
2010年、養命酒製造がファン拡大の手段の1つとして、長野県諏訪市にオープンしたショップ、ベーカリー、レストランの複合施設「くらすわ」。養命酒とは異なる価値を提案するため、あえて養命酒製造の名を表に出さずにいたこの施設は2018年、年間36万人が訪れる人気スポットに成長する。 この成功を受け、くらすわを第二の柱となるブランドとして育成することになった同社。しかし、新規事業を進めるうえでは、老舗であるがゆえの「安定感」と「イメージ」が障壁として立ち塞がった。そこから、どのように変革を遂げていったのだろうか。 【画像で見る】体験型複合施設「くらすわの森」は、東京ドーム約3個分の広大な敷地のなかにある
前編ー実はジリ貧「養命酒」が密かに抱えてきた“課題” 強すぎるブランド力ゆえ「味への誤解」があったーに続く後編では、その挑戦と、新旧の価値観の統合から生まれた、独自の成長戦略に迫る。 ■「すこやか」という抽象的な価値提案 くらすわは、商品と飲食を提供する「ブランドビジネス」という位置づけでスタートした。コンセプトは、「広げる、すこやかなくらしの輪」。養命酒製造の企業理念である「生活者の信頼に応え、豊かな健康生活に貢献する」という考えは継承しつつ、あえてライトに言い換えられた言葉だ。その狙いはもちろん、養命酒とは一線を画すことにある。
体重計のメーカーからレストランや食品が生まれた、「タニタ食堂」のようなケースであれば、本来の得意分野を全面に押し出すことができただろう。けれど、生薬を使った飲み物が売りの養命酒製造には、そのイメージで何度も敬遠された経験があった。 「マイナスの先入観を持たれないために、くらすわのブランディングにおいてはとにかく、『おいしさとたのしさ』を第一義に考えました。養命酒のイメージから抜け出して、もっと広く世の健康に貢献できる事業に育てたかった」
養命酒製造の執行役員で、くらすわ事業の責任者である福盛さんは、このように記憶を辿る。 ベンチマークしたのは、“だしの茅乃舎”“米のAKOMEYA TOKYO”のような、提供商品がひと目でわかるビジネスモデルだ。「よろずやみたいな店では、お客様が集まらないのでは」と危惧した結果だった。 他方、デザインにおいては、無印良品のようなナチュラルさを、ビジネス展開では、上質な商品を数多く扱い、全国に出店する久世福商店を目標とした。