「光る君へ」実物が残っていない紫式部の文字はこうして生まれた!書道指導・根本知が明かす
なお、前半でまひろが道長に贈っていた漢詩や宣孝(佐々木蔵之介)に贈った歌と、後半で執筆する「源氏物語」とでは書風に違いがあるとも。
「亡くなった夫の宣孝とは歌のやりとりでけんかをしていましたけど、心をそのまま吐露する和歌と、フィクションとして描く物語って、僕の中ではだいぶ違うんです。歌を書く時には胸の内をそのまま吐露する、いわばX(旧Twitter)のようなものだから、文字を散らしたりして激情を表していました。一方、『源氏物語』の頃には作家として自分の中に没入して落ち着いていくので書風に変化はつけていませんが、書く時の姿勢を前かがみに変えました。加えて、これまでは腕を上げて筆を柔らかく持っていましたが、速く書けるように筆の下の方を持ってぎゅっと握ってくださいと。そのスタイルには大石先生も賛同してくださいましたが、吉高さんは初めの頃に僕が“ダメです”と言っていたスタイルに戻す格好になったので“やっと雅な型が身についたのに……”と嘆かれていました(笑)」
変化しているのは書だけではなく、紫式部が大長編の「源氏物語」を完成できたのは上質の紙があってこそだと根本は語る。 「劇中に登場する紙は低級、中級、上級と3段階あって、まひろの身分が高くなるにつれて紙の質を変えてるんです。まひろが為時邸で書き物をしたり、代筆のアルバイトをしていたシーンなどが低級紙です。混ざり物のある茶色の紙ですね。まひろが宮中で『源氏物語』を書くようになると紙の質も上がってくる。まひろが越前で暮らしていた頃に越前和紙に感激していたことからも彼女が紙を大事にしていることがわかります。だから大きく堂々と書くことはしないだろうし、だけど物語をたくさん書かなきゃいけない。なので文字を徐々に小さくしているんです。低級紙だとにじんでしまうので大ぶりに書いていますが、後半に行くに従ってびっしり書くようになります。越前和紙ができたから『源氏物語』が生まれたと言っても過言ではないと思います。加えて、キャストの方々には攀桂堂さん(滋賀県高島市)が作っている紙巻筆を使っていただいていますが、一本伸びている命毛が重要で、この筆だからこそ細かい字の回転も可能になっています」と言い、「文房具の進化も見逃しちゃいけない」と強調していた。(編集部・石井百合子)