「光る君へ」実物が残っていない紫式部の文字はこうして生まれた!書道指導・根本知が明かす
「久海切」から根本が紐解いたのが、「物語を書く人」ならではの文字だった。「紫式部は書家(書道家)ではなく物語の作家なので、例えば書の達人と言われた藤原行成と違ってうまくある必要はないわけで。『光る君へ』では、『久海切』の文字と、平安時代に書かれた『斎宮女御集』にある小粒の丸字をもとに、まひろの手本を書いていきました。この書風であれば、早書きで手が疲れることもなく、たくさんの文字を書けます」 ところで、まひろ(紫式部)の書のシーンは吉高が吹替えなしで行っており、そのために本来は左利きだが右利きに変えている。これは誰にでもできることなのか。
「僕だってできません! だから吉高さんはすごいと思います。真面目で大変な努力家で気遣いの方。ご自宅でお稽古として書く量が凄いんです。“練習してくださったんですね。ありがとうございます”と言ったら“泣きながらやってんだからね~!”とおっしゃっていましたけど、本当に一生懸命に取り組んでくださって。初めは手元を吹き替えにするお話もあったんですよ。書道指導のお話をいただいた時、まだ脚本もないなかで指導が始まって、制作陣から初めに言われたのが“利き手を変えて書くことが可能か見定めてほしい”ということでした。それで何回かお稽古したのですが、吉高さんが歩み寄って努力してくださる方だとわかったので、できると思ったんですよね。制作陣の本人で撮りたいというご意向が強かったこともあって、吉高さんも“やってみようかな”と乗ってくださった」
撮影外でも書の練習を続ける吉高の努力が実を結んだことを、根本が実感した瞬間があったという。
「吉高さんが先日のお稽古でおっしゃっていたのですが、“初期の頃の映像を見ると、よくあんな下手な字を載せちゃったなって”と。実は、それはすごくいいことで。今は第40回ぐらいのシーンの書を練習しているんですけど、もうとんでもなくうまいんですよ。かな文字は、僕の書いた文字とつなげるとほとんど見分けがつかないぐらいで。前の映像を見た時に下手だと思えたということは成長している証拠で、書だけではなく目も良くなっている。序盤のまひろは10代前半だった。“書は人なり”と私はよく言うけど、吉高さんが紫式部に同化していくにつれて書も大人っぽく品良くなっていると感じます」