杉咲花の芝居がリアルすぎる…”朝子”と宮本信子”いづみ”が重なった瞬間とは? 『海に眠るダイヤモンド』第6話考察レビュー
眠っていた能力を開花させた朝子
朝子の両親は子供たちを心から愛していて、決して悪い人たちではない。ただ朝子を家に縛りつける力が強く、そのせいで彼女が持つ本当の能力はそれこそ海に眠るダイヤモンドのように発揮されずにいたのかもしれない。 だけど、端島の緑化計画で、眠っていた能力を開花させた朝子。本来、彼女は結婚しなくても1人で生きていくだけの力が備わっている。その上で、一緒になるなら鉄平がいいのだ。 「俺、朝子が好きだ」と想いを打ち明けつつ、「急に結婚とか、その、朝子の気持ちももちろんあるし、俺は…その…気が長い。朝子と一緒にいつまでも、いつでも端島にいるし、だから、ゆっくり長い目で見てほしい」と遠慮がちに告げた鉄平。 照れ臭くて、思わず吹き出してしまう朝子の反応があまりにリアルで、恋愛リアリティーショーを観ている気分になった。その限りなく素の状態に近い杉咲の生きた演技は、『アンメット』(2024、カンテレ・フジテレビ系)第9話における若葉竜也との名シーンを彷彿とさせる。 こうして次々と観る人の心に長く残り続けるであろう名場面を生み出している杉咲は、今の日本の映像界を支えていることは間違いない。 そして、あの日に「私、お婿さんになる人とコスモス植えたいけん、持っておいて」と朝子が鉄平に渡したはずのコスモスの種は今、彼の日記とともにいづみのもとにある。端島閉山時の写真に鉄平の姿はなく、いづみは彼の消息について知らないという。 おそらく鉄平の1964年8月16日の日記に綴られた「坑内火災」が端島の人々の運命をガラッと変えてしまうのだろう。ようやく彼らが手にした幸せが奪われるのだとしたら、なんて残酷な運命だろう。 でも、唯一確かなことは朝子は今も生きているということ。ここまでの道のりで彼女がどれだけ辛い思いをしたかは計り知れない。だけど、歯を食いしばって生きてきたからこそ、鉄平が撒いたコスモスの種が芽吹く瞬間に立ち会えた。 たとえこの先どんな展開が待ち受けていようと、本作は最後にきっと私たちに希望を与えてくれるはずだ。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子