美少女イラストは女性に対する「危害」なのか? “性的な表現”やヘイトスピーチの規制が難しい理由
「ヘイトスピーチ」規制の考え方
――ヘイトスピーチの問題についてはどう考えるべきでしょうか。 志田教授:ヘイトスピーチの場合には、そもそも相手を傷つけることが目的になっている。「言えばわかる」どころか、被害者が傷ついたと言ったらますます攻撃が激しくなることもあるわけです。 日本のヘイトスピーチ解消法は、かなり狭い範囲に問題場面を絞った対症療法的なもので、ヘイトスピーチの本質にアプローチできていないのでは、という疑問はあります。日本に適法に居住している外国人に向けて「出ていけ」と言うことだけがヘイトスピーチなのではなく、もっと広く、社会的に不利な立場にいるマイノリティを言葉で攻撃していたたまれなくさせること、単純に言えば「いじめ」がヘイトスピーチです。 法律でも、「相手を傷つける」ことを目的とする言説をヘイトスピーチと定義することで先に紹介した「アイヌ肖像権裁判」のような「差別的な表現」と分けて、後者は規制しないが前者は規制もやむなし、という線引きをすべきだと思います。 性的なイラストなどについては、ほとんどがアイヌ肖像権裁判と同じように「言えばわかる」ケースだと考えます。そういったイラストは女性を傷つけることを目的にしているのではなく、むしろイラストを見た人を喜ばせることを目的にしていますよね。このような場合には言論の自由市場のなかで、対話によって修正することができます。 しかし、性的な表現が「相手を傷つける」という目的で使われることもあります。私の知り合いの若い女性の政治運動家は、性的な画像にその人の顔を貼り付けるというコラージュ画像を作られて、ネットに拡散されました。 このような嫌がらせ目的の性的コラージュ画像が拡散されたりすると、やられた人は、ネット上で言論活動をしにくい心理状態に置かれます。ヘイトスピーチと同じような沈黙強制の作用のある表現です。こういった表現については、対話で修正することも難しいでしょう。こうしたタイプのものは、法律による規制が必要だと思います。 ひとくちに「女性を性的に描いた」表現としても、その悪質性はどの程度であるかどうかを見ながら、まずはケースバイケースで対応できるか考え、それが無理なら法規制が必要だという議論に進むわけです。 ――ヘイトスピーチかそうでないかを判断するうえでは、表現を発する側の「動機」や「意図」が重視されるのでしょうか。 志田教授:個人の表現を法によって規制する、というのは非常に強い手段です。こういった手段を用いる際には、表現者の意図も判断要素に入れるべきだと考えます。 一方で、企業におけるハラスメント問題などにおいては、加害の意図がなかったとしても問題にすべき場合があります。企業には職場環境を良好に保つ「責任」があるため、加害者側に悪気がなくても被害者がハラスメントを受けたと感じたなら適切に対応すべきです。