「ヘルメット無しでLUUP」はやっぱり自殺行為…自転車は「歩行者の仲間」という大誤解が生んだカオス
■「自転車は歩行者の仲間」という大間違い この「歩行者にもヘルメット」という考え方は、案外危険な話で、次のように使われたりもする。 「チャリンコにヘルメットなんて要るか? だったら、歩行者だって必要ってことになるじゃないか」 で、その人は結局それを言い訳にして自転車に乗る際にヘルメットをかぶらない。これに近いことを考えてる人も案外いそうだと、私は思っているんだが、こういう人たちが、圧倒的に誤解しているのは「自転車は歩行者の仲間」だと思い込んでいることだ。 まずそこが違う。自転車はスピードが出るのだ。ママチャリであっても歩行者の3倍や4倍の速度が普通に出る。歩行者が約4km/hだから、そういう勘定になる。いや、それ以上だって楽々だ。 3倍? 4倍? その数値も実は甘いのだ。衝突時の運動エネルギーというものは質量×速度の二乗に比例するので、自転車の衝突エネルギーは、歩行者の9倍から16倍になるのである。 ここに自転車分の重量増が加わってくる。これは単純な物理の法則であって、ここに抗える人は誰もいない。 ■死亡率の境界線「時速30km」 そしてもうひとつ、事故のダメージは「相対速度」で決まることだ。 ママチャリレベルの15km/h前後で、何かの移動体と衝突した際(ママチャリ同士であっても)、相対速度は十分30km/hに届く。 そして、その30km/hこそが有名な「死亡率が急騰する速度」なわけだ。歩行者とはここが違う。 ヘルメットをかぶるのは確かにちょっと面倒くさい。特に女性にとっては、髪型がつぶれてしまうので避けたい気持ちも理解できる。でも、今回の息子の事故で明らかになったように、命を守ってくれる。 そのデメリットとメリットを天秤にかけて、バランスがとれるのはどこだろうというのが、かぶるかぶらないの基準ラインとなってくるのだと思う。
■都会を爆走する命知らずのノーヘルたち そして、多くの「自転車は歩行者カテゴリーだと思い込んでる人」は、そのかぶるかぶらないの基準ラインを自転車とモーターサイクルの間あたりにあると思ってる。 でも、違う。私などは歩行者と自転車の間だと思うし、多くの実証結果はそれを示しているのだ。 よく「自転車は走る凶器である」という言葉を聞くが、それは金属が堅くて痛いから、というのが主ではない。「自転車は速いから」「衝突エネルギーが大きいから」というのが基本で、それはぶつかられる側だけではなく、ぶつかる側にとってもそうなのだ。 都会の道路を爆走しているペダル付き電動原付バイク「モペッド」は、もちろんヘルメット着用が義務である。原付だから。ところが、実際にはノーヘルでナンバーすら付いていない違法モペッドがうじゃうじゃいる。違反も違反だが自分の命を危険にさらしているということを分かっているのだろうか。 また、最高速度20km/h(LUUP同士の相対速度は40km/hだ)のLUUPのユーザーも、現実として、CM以外ではだれひとりヘルメットをかぶっていない。これも明らかに危険、というよりもはや「法の不備」とすらいえるだろう。 ■ヘルメット着用率は都道府県で雲泥の差 ご承知の通り、2023年から、日本でも自転車ヘルメットの装着は罰則なしの「努力義務」となった。 装着率はじわじわ上がってきているとは言うものの、全国平均でいまだに17%というところだ(2024年7月、警察庁調査)。ちなみに、1位は愛媛県の69.3%、最下位は大阪府の5.5%と都道府県によってかなり差は大きい。 じつのことを言うと、この装着率は低いとも解釈できるが、案外高いともいえる。海外と比べてみよう。 たとえばオランダーやデンマークなどの自転車先進国においては、ヘルメットをかぶっている人はあんまりいない。自転車の走行スペースが完備していて、クルマとぶつかる可能性がきわめて低いからだ。かの国々では「自転車ヘルメットが必要なほど危険な道路は、インフラに問題がある」というのが常識となっている。