配属ガチャの次は転勤ガチャ?転勤が嫌われる今、採用・転勤・昇進はどうあるべきか (東福まりこ キャリアコンサルタント)
■幹部候補は別枠採用
こんな企業もある。わたしが勤めていた企業のドイツ本社(メルセデス・ベンツ)では、幹部候補のエリートは別枠で採用していた。 外資系に勤めている人の多くは、本社が外国にある企業の日本子会社に勤めている(現地採用)。私もそうだった。 他方、本社や世界の現地子会社で働く本社採用の人の中に、通常の採用とは別枠で選ばれた少数の「幹部候補のエリート」がいた。 本社ウェブサイトにあるInspire-the Leaders’ Labがそれで、書類選考と丸1日のチームワークやリーダーシップの実技を経て選ばれた学生たちが、入社後、特別なマネジメントプログラムに参加する。 期間は18か月。工場の組み立てラインを始め、ファイナンス・マーケティング・セールスなどさまざまな部署をまわり、海外のプロジェクトへも参加する。その間、ひとりひとりにトップマネジメントのメンター(知り合いのメンターは本社役員だった)がつく。 応募条件はウェブサイトに書かれていないので正確にはわからないが、以前に聞いた条件はこんな感じだ。 ・国籍は問わない ・修士以上の学位(予定) ・ドイツ語が流暢である ・母国以外の国で、1年以上勉強あるいは働いた経験がある 修士以上や留学(か仕事)1年以上となると、結局学歴なの? 仕事ができるかどうかはわからないでしょう?と思うかもしれないが、学生は卒業までに休暇を利用してあちこちの企業でインターンシップに参加しており(人気のインターンシップはそれ自体に選抜がある)企業応募時にはその職場からの推薦状も提出してアピールするのが普通だ。 プログラムを終えた参加者は行きたいポジションに応募するが、プログラム出身の経歴は、選考で有利になる。自ら応募しなくても、メンターの役員と仲間の人的ネットワークで声がかかる可能性もある。 私のドイツ赴任時の仕事はプロフィットコントローラー(利益計算・損益計算書の分析・プロジェクト計算をする仕事)だったのだが、同僚の一人がそのプログラムの出身で、「ここで2年くらい働いた後、マーケティングなど他の分野に移る予定だ。ここに長くいると、コントローラーという専門職の色がついてしまうから」と言っていた。 日本以外の先進国の会社員といえば、皆専門を極めようとしていると思いがちだが、さまざまな分野・違う地域で経験を積み、あえてジェネラリストの経歴を作る人もいる。それが幹部候補生のエリートだ。 入社の段階で、国際的な環境で耐えられる優秀な人を選んでおく。その人たちは自律的に転勤をしてリーダーとしての経験を積む。マネジメントへのFast-track(近道)を準備する理由の一つは、変化の速い市場の中での多忙な業務に耐えられる若い幹部の育成だ。 管理職候補と幹部候補では求められる資質も経験も異なるのであるから、新卒採用時に別枠にするのも一考に値する。