子どもが発熱「37.5度の壁」で離職も…病児保育の利用率は約“3割”なぜ広がらない?
■病児保育は利用までのハードルが高い…解決の糸口になる「あずかるこちゃん」
庭野:事業者によって違うと思いますが、利用には事前の登録が必要ですか? 園田:子どもが病気になる前に登録をしておくことが一般的です。手続きが不要な自治体もありますが、大体は受け入れ側がどんな子どもなのか知っておくために、事前に紙を出しておいてねと。 庭野:アレルギーがあるとか、特徴を知っておかないといけませんよね。その上で、今日熱が出た、おなかを壊しているといった場合に、問診票を書いて預けるということですよね? 園田:おっしゃる通りで、なぜこの事業をやっているかにも繋がるのですが、事前登録して、行くときに電話をして、自宅で用紙をプリントして記入して持っていく。夜、熱がでて明日の朝どうなるのか不安の中、電話しても30分以上つながらず、利用までのハードルが高くなってしまっています。 事前登録で情報を伝える、予約をしたいがどこが空いているかわからないといった課題があったので、スマホでいつでも情報を入力できて、子どもが病気になってしまったら、近くの施設の空き状況を見てそのままネットで予約ができる。そうした仕組みを考えました。 庭野:それが「あずかるこちゃん」ですね。自治体では2県20市区町に導入されているということですが、どうですか? 園田:2021年10月から大分県の方でやっていて、2つ提供できたと思っています。1個は、県内全部の施設の空き状況が見えて、7割の施設はそのまま予約までできるという、ICT化。次に、広域化。病児保育は市区町村事業なので、市外の方は使えないか料金が高いのが一般的ですが、県内全部の施設を利用できるよう広域化するという、2点に取り組んでいます。
■“子どもたちの基本的欲求を叶える”「病児保育」始めたきっかけ
庭野:園田先生が病児保育についてのデジタル化事業を始めたきっかけはなんですか? 園田:ずっと産婦人科医をやってきて、その後大学院で公衆衛生学、つまり「社会をどうやって健康にするか」という学問を学びました。自分が何をやりたいかと思った時に、産後うつであったり、お母さん1人で子育てをするのがしんどくて虐待につながったりということに対して、何かできないかなと思い、まずはお母さんたち100人ほどにお話をききました。 野中:ヒアリングして生の声をきいているから、こういうサービスにつながるんですね。 園田:兄弟にも順々に感染していって、月の半分仕事に行けず、職場に申し訳なく評価や給料も下がってしまって、結局やめてしまったという方に何人かお会いしました。ママがそういう選択をすることは想像できるんですけど、パパがそういう選択はあまりしていないよなと。まさにジェンダーの話に繋がりますが、産婦人科医としては女性の味方になりたいですし、結構モヤモヤというか…それを超えて、ありえないなと思いました。 何か解決策がないかというときに、当時「病児保育」という言葉も知らなかった中で初めて現場を見て、めちゃくちゃいいなと。僕が感激したポイントは、保護者が仕事を休んでみるというのは素晴らしい選択ですが、やはり親は医療の専門家ではないので、基本的にケアが中心なんです。ですが、38度あっても元気な子は遊びたいという基本的欲求があります。 野中:わかります。うちの子も40度あっても走っていました。 庭野:子どもって結構元気ですよね。大人は37度後半でもだるくて休みたいのに。 園田:(発熱しているときに)子どもたちの遊びたい基本的欲求をかなえるというのは、親はなかなか難しい。それが、現場に保育士さんがいてくれるので、熱があるけど活気があるから大丈夫だろうと保育を提供できる。病児保育はベッドで寝ているイメージを持っている方もいらっしゃいますが、どちらかというと保育園がすごく近いです。 野中:すごくあったかい雰囲気で、保育園にしか見えないですよね。 園田:病気の間も子どもは成長するので、遊べるのであれば、遊びの中で学びを得て成長していけるのがめちゃくちゃ素敵な子ども支援であり、結果として保護者の就労支援になっていると思います。 しかし、利用率が3割しかなく、使いづらくて、みんな知らないということを解決したいなと思い、この事業をやろうと決めました。 庭野:利用率があがらないと、人件費もかかりますし、経営も結構赤字な施設があるんですか? 園田:施設の6割から7割が赤字というデータもあって、国の交付金で安定経営できるように、とはなっているんですけど、利用人数に応じた委託料というルールの自治体が多いので、利用が少ないと収入も少なくなってしまうんです。使いたいのに使えないという人がいるのが問題で、適切につながるようにすればいいんですが、毎年数十の施設が閉室しています。 野中:以前、取材した神奈川・大和市の病児保育室も地元のために善意の経営で奮闘してきましたが9月末に閉室になりました。最終日、2歳の男の子を連れてきたお父さんに話を聞いてみたら「明日からどうしよう…」と「病児保育室の必要性は子どもをもって初めて知ること」だったと。現場で、お母さんのキャリアがストップしかねない状況や、駆け込んでくるお父さんたちの姿をみて、こうした現状は、今後の社会を良くするためにも変えていかなきゃならないのかなと感じました。