物理法則を超えて家父長制と戦う?ジャンル横断映画『ポライト・ソサエティ』主演俳優に聞く
リプロダクティブライツと本作。リアとラスボスの対峙、そして類似から見えるもの
──リアの最大の敵も女性であるラヒーラです。彼女もまた若いころからパキスタンの伝統的なジェンダーロールに束縛され、かつてお見合い結婚で自由を奪われたことの代償から密かに計画する陰謀も生まれたことが見えてきます。ラヒーラは、リアと自分が似た者同士だと言いますが、それをどのように思いますか。 プリヤ:ラヒーラは境遇の犠牲者だと思います。彼女はたとえ自分の人生で何かをしたいと思ったとしても、親や周囲と反抗的に戦う気持ちがあったとしても、当時の社会は決してそれを許さなかった。リアがスタントウーマンになりたかったように、彼女も何かになりたいと思ったとしても、どうすることもできなかった。そのような時代状況に置かれていたと思います。 でもリアはまったく違う時代、違う場所で生きている。彼女の両親は彼女をスタントの学校に行かせ、人生に夢を持つ自由を許した。でもラヒーラは決してそれを与えられなかった。ラヒーラが境遇や周囲の人々に縛られて育った結果、リアとはまったく異なるキャラクターになっていますが、確かに性格が似ているところがあると思います。 二人とも決然としたブレない情熱を持っています。リアが姉を救うこと、そしてスタントウーマンになることに邁進しているように、ラヒーラもクローンづくりへの決意を固めている。でも、彼女たちはまったく違う人生を歩み、まったく違うタイプの人間になった。リアはスーパーヒーローに、ラヒーラはスーパーヴィランになったのです。 ──『ポライト・ソサエティ』では、女性を子を産む機械として見る社会において、女性が身体と未来を自分自身でコントロールすることついて語っていますね。未だリプロダクティブライツをめぐる環境は悪化し、言説は二極化していますが、このテーマの重要性について伺わせてください。 プリヤ:この映画は、リプロダクティブライツをめぐる会話がなされはじめ、ますます重要な問題になっている時期に公開されたと思います。 この映画が公開されたのは、アメリカではロー対ウェイド判決の論争が起こり、リプロダクティブライツをめぐる政策について、多くの議論が交わされていた頃でした。世界中で、そのような議論が行なわれるようになったときだったのです。 特に、女性たちが女性の視点の物語を語っていくなかで、生殖にまつわる話題は自然と含まれてくるのだと思います。そのような物語が増えることで、リプロダクティブライツがいかに重要で、そのために私たちがいかに戦い続けなければいけないのか、いかに対話を続けなければいけないかを、理解することができると思います。 政策の決定を下す人々は、そのような立場に置かれたことがないので、どういうことなのか考えられないことが多い気がします。映画の素晴らしいところは、座席に座りながら登場人物の立場に身を置き、共感できることだと思います。自分だったらどうするだろう、私だったらあんな状況には置かれたくないなどと思うことができます。映画の存在によって、もし自分のリプロダクティブライツを守る法律がなかったら私は死んでいたかもしれない、不幸な人生を送らなければいけなかったかもしれない――というふうに、人々の考えを変えられたり、対話を続けるきっかけになるかもしれないと考えています。 ──南アジア系として、あるいは現代を生きる若い女性として、あなたにとって重要な映画は何か最後に教えてください。 プリヤ:難しい質問ですね……いま世界はどんどん恐ろしい場所になってきているから、笑ったり、現実逃避したりすることが本当に重要なことだと感じています。私は、時々、自分の好きな映画に戻るのが好きです。 『Mr.インクレディブル』(2004年)などピクサーのアニメーションが大好きで、繰り返し楽しんでいます。最近公開されて観た南アジア系の映画では、『The Queen of My Dreams』(2023年)がパキスタン系の女の子を描いた、本当に美しいインディペンデント映画で素晴らしかった。『アメリカン・フィクション』(2023年)のような巧みにつくられた映画も好き。人種にまつわる深刻な題材であってもユーモアを持ち込むことで、観客にトピックにアプローチしやすくさせ、社会に存在する問題を理解させることができますよね。 また、東京にいるあいだ、『ロスト・イン・トランスレーション』のことをずっと考えているのですが、あの素晴らしい映画のように、ある時代を感じさせるノスタルジックなもの、インスピレーションを与えてくれるもの、共感できる映画が好きですね。 ──まさに『ポライト・ソサイエティ』は、文化的な問題や世代間の対立を扱いながらも、物事を深刻に捉えすぎずに楽しく語っていますね。 プリヤ:そう! 本当にその通りだと思います。
インタビュー・テキスト by 常川拓也、撮影・編集 by 今川彩香