マイナ保険証「一本化」は“個人情報のリスク増大”や“憲法違反”の問題も?…専門家が警告「それでも強行することの危険性」とは
法的根拠なく医療機関に「オンライン資格確認」の対応を義務づけ
小島弁護士はさらに、医療機関にオンライン資格確認への対応を「療養担当規則」(厚生労働省令)によって義務付けたことが、国会を「国の唯一の立法機関」と定めた憲法41条に違反すると指摘した。 憲法41条は、人権保障の見地から、国会に法律を作成する権利を独占させる規定である。判例・学説によれば同条の「法律」は実質的に解釈され、少なくとも「国民の権利を制限し義務を課する法規範」は必ず含まれることとされている(最高裁昭和60年7月16日判決等参照)。 したがって、医療機関にオンライン資格確認への対応義務を課する場合、それは法律によって定められなければならない。 例外として政令・省令といった下位の法規範への委任が認められるが、その場合は相当程度具体的なものでなければ認められないとされる(最高裁昭和49年(1974年)11月6日判決等参照)。 小島弁護士:「本来ならば、健康保険法の改正が必要だったはずだ。 ところが、法改正をせず、療養担当規則という省令を改正する形で、保険医療機関に対してオンライン資格確認を義務付けている。そのことについて、健康保険法は療養担当規則への委任を行っていない。 行政機関が勝手に法律を作ったのと同じであり、憲法41条違反だ」
政策を実行するプロセスの「健全性・透明性」の問題
政策を実行するプロセスが健全性・透明性を欠くという問題も指摘された。 現行保険証の廃止とマイナ保険証への一本化は、もともと、河野太郎デジタル担当相が2022年10月に記者会見で発表したものである。 山崎医師:「日本で推進されているマイナ保険証による『医療DX』は、国・政府が医療機関を強制的に動員して、全国民の制度を統合する形をとっている。 DXは本来、多くの国民が便利になるための企業や社会の取り組みであるはずなのに、逆のベクトルになっている。 日本が国際的に遅れているという主張もあるが、世界中、このようなおかしな制度をとっている国は他にない。 所管外の河野デジタル担当大臣がイデオロギーで勝手に推進してしまったことで、国中が振り回されている。 全国の医療機関がトラブルに巻き込まれ、患者が多くの不便を押し付けられ、かつ、何兆円もの国家予算がどぶに捨てられている」 東京都世田谷区の保坂区長は、医療機関や市区町村の現場の声が反映されていないことへの不信感を示した。 保坂区長(東京都世田谷区):「法律上、マイナンバーカードを取得するか否かは任意であり、全国民に持たせたいなら本来は法改正等が必要だ。 それなのに、政府は法改正をするのではなく、マイナ保険証への一本化により事実上マイナンバーカードの取得を強制しながら、他方で『マイナポイント』でお金をばらまいて普及させようとするやり方をとっている。 これまで、国民皆保険制度を成り立たせるために医療機関や保険組合、自治体が払ってきた努力の重みに対する敬意の念が全く感じられない。 河野大臣は保守政治家だったはず。本来の保守の思想とは『人間は必ず誤りを犯すので、過去の経験則を重視する』というもの。誤りがあれば、素直に認めて改めるのが筋だ。 2026年をめどに新たに『次期個人番号カード』が導入される予定も決まっている。やがてなくなるマイナンバーカードを取得してもらうために、市区町村は相当な労力を払わされている。 現場の声、医療を必要とする患者の声を汲み上げた制度に転換すべきだが、そのベクトルと真逆になっているので、信頼が低い制度になっている」 元総務官僚でもある長野県飯山市の江沢岸生(きしお)市長も、昨今の政府の政策の進め方に憂慮を示した。 江沢市長(長野県飯山市):「マイナカードへの一本化に限らず、政府は物事を強硬に進めており、国民からの信頼が低くなっている。 政府への信頼が低くなると、国民は政府がやることをなんでも疑うようになり、抵抗が強くなる。そうなれば、政策実行や改革に時間がかかり、政府にとっても損であるはず。 スムーズに進めたければ、信頼性を高める必要があるということをよく考えてもらいたい」